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50センチの距離
第18章 アッラナポリターナ ー追憶ー
中に入るといい匂いがした。

白髪の小太りの親父が俺をチラッと見て、何か言った。

「Hai preso di nuovo un cane sporco? (また汚い犬を拾ってきたのか)」

おばさんもイタリア語で応える。

「Un ragazzo giapponese, non un cane (犬じゃなくて日本人の男の子よ)」

「È lo stesso (同じだろ)」

親父は肩を竦めて溜息をつき、奥へ下がっていった。

「ごめんなさいね、口の悪い人で…悪気はないのよ?」

雰囲気からして何か悪態をつかれたんだろうとは思ったけど…やっぱりそうなんだな。まぁなんと言われたかはわからないし、そこはおばさんも翻訳してくれなかった。

しばらくすると、親父が奥から湯気の立つ皿を持ってくる。
どん、と俺の前のテーブルに置くと、

「mangiare (食え)」

「ウチの看板料理よ。どうぞ食べて?」

トマトソースに、キノコと茄子が入ってるのはわかった。あとは…黒いのがオリーブ、緑の酸味のある豆みたいなの、濃厚な旨味と塩辛さは…魚の身…?それだけ食ってみると塩辛い。でもパスタと一緒に食うと塩気と酸味と旨味のバランスが絶妙。ニンニクも効いてて、ガツンと腹にたまる一皿だった。

「…美味い…これが、本場のナポリタンなのかな…」

「ナポリタン?ナポリターナのこと?これはプッタネスカっていうんだけど…ナポリターナはもっと具材が少なくてシンプルだわ。でもこれもナポリの伝統的なパスタではあるわね。」


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