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50センチの距離
第5章 シャンディガフ(甘口)
しばらく待ってみても、俺がアクションを起こさないのに焦れたのか、カウンターに置いた小さなバッグを掴み、立ち上がった。

「帰るの?」

俺は伝票を千切り、涼子に差し出した。
涼子の眉毛がピクリと動く。

「私からお金取る気?」

…現役の彼女なら取らないけどさ。何様のつもりだよ。

「なんだ。昔の男にタダ酒たかりに来たのかよ。堕ちたもんだな。ま、たったこれっぽっち払えねぇってんなら今回だけは大目に見てやってもいいけど?」

シャンディガフ1杯、税込¥972ー、の伝票をピラピラと振り、口の端を歪めて思いっきり意地悪く言ってやる。

涼子の頰が引き攣り、眉毛がグッと上がる。

乱暴にバッグから財布を出すと、バン!と千円札をテーブルに叩きつけ、

「ご馳走さま!二度と来ないわ!」

と捨て台詞を吐いて、出て行った。

二度と来るなはこっちのセリフだよ。啖呵切るなら万札くらい置いてけっての。溜息混じりにカウンターの千円札を回収し、レジに納める。
塩を撒きたい気分だったが、他の客の手前、それはやめておいた。
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