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50センチの距離
第42章 アッラ ルチアーナ(タコとトマトのパスタ)
「だからこそ、だよ。味覚や嗅覚とかの、五感に関わる記憶って意外と根深く残るもんだ。お前だって子供の頃食って美味いと思ったモンの記憶とかあるだろ?」

「はい…」

「それに対して、いつ、どこで、どんな状況だったか、なんてディティール部分は曖昧なことが多い。脳の中で五感に関わる記憶と、そうでない記憶に分類されるからな。つまり、ウチを知らない人たちに、ウチで、その辺のケータリングを食べさせる、て事は、後々それがウチの味として記憶される可能性があるってこと。しばらくはそれがケータリングだって理解して覚えてるかもしれない。けど、5年後10年後、実際に金払って美味いもん食べよう、って思える年代になった頃、そこまで覚えてるとは限らない。昔友達の結婚式したなぁ、味はもう一つどこでも食える感じだったなぁ、ていう記憶として残ってしまったら、俺はそれが残念だ。」

そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。
俺がしょんぼりと黙り込んだのを見て、鷹司さんは溜息をついた。
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