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SMを詰め込んだ短編集
第12章 ガラスの靴がなくとも/奴隷・純愛
「謝んなくていい」

大の字に拘束されたときに付いた足首の薄い傷を、すりすりと撫でる指の優しさに。
これまで黙って耐えてきたけど、きっと異常だったんだと気が付いてしまったショックに。
ぶっきらぼうに見えるが垣間見える蓮の温かさに。
わたしを玩具のように扱ったお兄様を、好きでいたかった気持ちに。
蓮の目の奥が柔らかく揺れ、労わる視線に。
わたしを玩具として扱っていた事実に蓋をして見なかったのに、現実を突き付けられたことに。

しがみついて泣いた。
人の肌はこんなにも温かいと、久しぶりに思った。
逞しい蓮の腕は背中を撫で、髪を撫で、忙しなくわたしの体を這う。なんと心地よいことか。安心したということばのほかに、なんと表現したらいいのか。
お兄様を嫌いになりたくない。
優しかったお兄様がいつか帰ってきてくれると信じたい。

だけど、この人に、蓮に頼りたい。縋っていたい。この温かい腕を離したくない。

叫ぶようにして泣くわたしを、蓮はただ黙って背中を摩ってくれた。
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