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SMを詰め込んだ短編集
第12章 ガラスの靴がなくとも/奴隷・純愛
「何してんだ?早く入れ」

いや、入れと言われましても…。
ずらりと並んだ兵隊と、奥にはメイドさんたちが控えている。
若い…あれは執事という役職のお方だろうか、白いナプキンを手に持って訝し気な視線を無遠慮に投げて寄越していた。それもそうだ。
裸足の女がこんな立派なお城に何の用だと、むしろわたしが知りたい。

蓮が一歩、お城へ足を向ければ、並んだ兵隊がびしりと敬礼する。奥のメイドさんたちは一糸乱れぬ完璧な仕草で全員一斉に頭を下げた。

「おかえりなさいませ」

訝し気な視線を一旦仕舞い込んで蓮の上着やら何やらを受け取り、振り返り際にわたしを一瞥した。勿論いい気はしないが、その気持ちはわかる。

「大事なやつだ。丁重にもてなせ」
「は、畏まりました」

洗練された完璧なお辞儀。
口を閉じることを忘れてしまったわたしに、明らかに作りこんだ笑顔を見せた。

「大変な失礼を致しました。どうぞ中へ…失礼でなければ、お履き物の所在を伺いたいのですが」
「あ、えと…」

持ってません。
そんなことを、この大勢の人がいる前でなど恥ずかしくてとても言えない。
まごついて俯くわたしに、きっとまた無遠慮な視線を投げていることだろう。顔を上げることが出来なかった。

「おい」

いつの間にやら遥か向こうまで歩みを進めていた蓮が振り返る。

「聞こえなかったのか?丁重にもてなせと言ったはずだが」
「はい、しかし…」
「大事な奴だと言ったのが聞こえなかったか?」

湖畔で聞いた声よりも、随分低い。
怒ってる…良くても機嫌が悪い、程度?

お兄様が機嫌を損ねたときの顔がフラッシュバックする。

ああそうだ、ダメだ。こんなところにいてはだめだ。
どんなに酷いことをされたって、あの家にいるべきだった。こんなわたしに不釣り合いすぎるこの場所から一刻も離れなくては。今からでも多分遅くない。これ以上お兄様を怒らせる前に早く戻らなければ…

「鈴」

冷たい風が吹き抜ける玄関ホール。
はっと顔を上げる。
蓮が手を差し伸べた。

「大丈夫だ。来い」
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