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SMを詰め込んだ短編集
第12章 ガラスの靴がなくとも/奴隷・純愛
「ふ、あ、んん…」
「洗ってるだけだ。そんな声出すな」

向こうを向いてと言ったのに無視されたどころか、今わたしの体の上を蓮の大きな手が這っている。たっぷり泡立てたクリームみたいなソープが時々古傷を掠め、その度蓮が痛々しい顔をした。
大丈夫だよ。そう言う前に何かを察したのか、徒に胸の突起を指で引っ掻くから、変な声が出る。住んでいた家ほど広い浴室に声が反響して恥ずかしい。

「れん、手、や…」
「だから、洗ってるだけだ」
「違う、それ、手がっんん!」
「感じてるのか?こんなもので」

お世辞にも大きいとは言えない胸を、大きな手でむにむにとマッサージされて、思わず蓮の腕にしがみ付いた。
気をよくしたのかきゅ、と頂を摘まみ上げるから、掴んだ腕に爪を立てた。
恥ずかしい。こんな、恥ずかしい…

「足が震えてるな。怖いか」

胸を触られる。自分以外の誰かが自分の体を這う。縛り上げられ痛い思いをし、体を貫かれる。嫌という言葉は聞き入れてもらえない。

お兄様に植え付けられた行為が、走馬灯のように頭を過る。

「おい、鈴。こっち向け」

いつの間にか呼吸が苦しくなっていたのが、蓮に優しく頬を包まれるまで気が付かなかった。
まっすぐ射抜く蓮の目に、泣きそうになっているわたしが映り込む。
蓮は何も言わずにただ黙って、そうして深く頷いてから泡だらけのわたしの体を抱きしめてくれた。

「キスしていいか」

耳元に響く声が少し上ずっていたことに気が付いて、心なしか肩の力が抜けた。

「…うん」

少しだけ体が離れ、眉間に皺を寄せて実に男らしい顔をした蓮がゆっくりと近づいてくる。
荒々しい肉体とは裏腹に、至極柔らかな唇が重なった。
ゆっくりと食み、熱い舌で舐められる。

強引に物事を進めてきたと思ったら、こんなにも優しいキスをしてくれたことに思わず涙が零れた。

「いやだったか?」
「ちがう、あのね…」

この人、こんな、捨てられた子犬みたいな顔するんだと驚いた。それがなんだか妙に可愛らしくて、おかしくて、ぽろぽろ涙をこぼしながら笑った。
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