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SMを詰め込んだ短編集
第13章 執事の恋心/SM
あれから半月。8人目の新人の執事を迎えた。物腰が柔らかく、スーパー我儘お嬢様の理不尽な要求にも、一切物怖じせずに接する彼になら任せられると判断した。満月の夜だった。

今夜も滞りなく一通りの調教を終え、黒いスーツケースに道具を仕舞う。
それから涙で濡れたお顔をそっと拭ってやる。今夜も例に漏れず失神してしまった鈴お嬢様の頬を指で撫でた。

「今日も来てくれたのね、嬉しいよ蓮!」

幼い日の鈴お嬢様が蘇る。
太陽のような笑顔を見せ、俺に向かって走ってくる危なげな足元。転んでしまわないか冷や冷やしながらも、俺も走ってお嬢様の元へと駆けた。幼い、あまりに幼い日だった。



俺は執事家系に生まれ、祖父がこの邸宅で長年執事を務めていた。その関係で幼い頃から鈴お嬢様の遊び相手だった。
あの頃はお嬢様も執事も関係なく、ただ幼馴染だった。ただひたすらに幸せで楽しくて、草の上を笑い転げて過ごした。
月日が流れる毎に、俺は俺の世界を知る。
知れば知るほどお嬢様のお側にお仕えしたいと強く思うようになった。
お嬢様を──鈴を、愛していたから。

だが、それは気付いてはいけないことだった。
世界でも類を見ないほどのとんでもない財閥の一人娘と、一介の執事。どうやったって結ばれない恋だった。
この先鈴は、俺の知らない男と結婚するだろう。夫婦となれば、世継ぎを産まなくてはならないだろう。
──俺はひっくり返ったって鈴の隣には立てないだろう。
こんな気持ちを抱えたままではもう、側にいることは出来ないと思った。

だから、体で俺を繋ぎたかった。せめてもの俺なりの抵抗だった。
鞭でなければイけない。俺でなくてはイけない。
この先知らない男と床を共にするたび、俺を思い出せばいいと思った。俺を思って知らない男に抱かれればいいと思った。

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