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SMを詰め込んだ短編集
第14章 敵と味方 奴隷/SM(風味)
「…うん、そうだよね。ごめん。…ああ、俺はこの国の王子っていうのをやってる。蓮っていうんだ。きみは、鈴、だよね…?」

港に着いたって連絡はあったけど、なかなか来ないから見に行ったんだ。もっと早く行くべきだった。
独り言のように呟いた蓮と名乗ったその男は、鈴の制止を振り切ってベッドの端に座った。
ただ、鈴を気遣ってか、鈴に背中を向ける形を取った。その方が話を聞いてもらえると判断したのかもしれない。

「痛むところに塗る薬を持ってきたんだ…塗らせてくれないかな」

ふうふうと威嚇のように口の端から息を漏らす鈴を、蓮はちらりと見やった。
怯えた猫のようだと思った。それもそうだ。自決したって不思議でないことをされたのだ。
ふと息を吐いて、体を半分だけ鈴に向けた。

「今すぐ俺を信用しろっていうほうが無理だと思う。でも、薬を塗らせてほしいんだ。どうかな。今だけ触らせてくれないかな…俺に、触れる?」

静かに右手を差し出して見せる。大きくて、豆だらけの手だった。
一瞬びくりと肩を跳ねさせ、そうして威嚇と不安と、それから少しでも何かに縋りたいような、こちらまで泣きたくなるような目を向ける鈴を、蓮は黙って見つめた。

敵しかいないこの国で、鈴は縋りたかったのかもしれない。
震える手をそっと、伸ばされた蓮の大きな手に静かに重ねた。

「よかった」

はあ、と大きな息を吐き、破顔した蓮に、鈴まで肩の力が抜けたようだった。
もし、もしも、この国に何事もなく入国してこの笑顔を見たら、一瞬で恋に落ちるかもしれない。そんな、素敵な笑顔だった。最も、今の鈴にそんな余裕はないのだが…。


伸ばされた鈴の手を優しく握り返し、驚かさないようにゆっくりと体をベッドへ完全に乗せた。怯える鈴に大丈夫と囁いて、それからまた、左手を差し出した。

「今からきみの髪に触るよ。いい?」

そう言って首を傾げる蓮の目を、鈴はじっと見つめた。それから少し時間をおいて、小さく頷いて見せる。やっぱり蓮は破顔するのだった。
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