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SMを詰め込んだ短編集
第14章 敵と味方 奴隷/SM(風味)
宣言通りに静かに左手を鈴に近付け、それから指の先で髪の毛を梳いて見せた。きっと滑らかで自慢の髪の毛だったのだろう。今は誰のものとも、何人分なのかもわからない精液がべったりとこびりつき、かぴかぴに乾いてしまっている。
それを汚いとも思わず、蓮は静かになんども梳いてやった。
しばらくそうしていると、鈴が細い息を吐いたのを視界に認めると、蓮は体を一歩鈴に近付けた。
今度は頬を撫で、鈴のちいさな手を握ったままの指で甲を撫で、安心させるように大丈夫、大丈夫と囁く。
やがてその手は首筋に降り、肩を撫で、腕まで降下させた。そうして力が抜けてきた鈴の体ごと、蓮の腕に閉じ込めてやった。

「怖い?」
「…ううん」

温かく逞しい蓮の腕に、ひどく安心した。硬い軍服の裾を掴んで、存分に泣いた。蓮はただ黙って背中を摩ってくれた。


「見せて」
「うん…」

ひとしきり泣いて落ち着いたころ、蓮は鈴の体を少し離す。何も纏っていない鈴の柔らかな肌には、痛々しい痕がいくつも残っていた。
軍服のポケットを弄って、赤い蓋の筒状の軟膏を取り出す。
蓋を開けて、中身を鈴に見せた。

「傷薬だよ。この国では昔から良く効く言われてる。数種類の薬草を煎じて、それから粉にして、浸透性の高いオイルと、自然治癒が高まるって言われてるゼラチンみたいなクリームに混ぜて作るんだ。変な色だし少し沁みるかもしれないけど、きっと良くなるよ」

それから指にとって、何色とも言い難いその軟膏を怪我などしていない自分の腕に塗って見せた。安全だということを示したかった。

「いい?」
「…うん」

鈴のほうも、信用してみたいと思ったのかもしれない。どうせ一度は死んだこの身、今更どうなってもいいと思ったのかもしれない。
とにかく縦に頷いた鈴に、蓮は微笑んで見せた。

「木の板なんて、酷いよね。痛かったでしょ…」

首筋にくっきりついた赤い痕に、軟膏を塗りこむ。言った通り、少し沁みるらしく、鈴は蓮の軍服の裾をがっちりと掴んで離さなかった。それについては蓮のほうも何も言わなかった。
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