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SMを詰め込んだ短編集
第17章 昔の男に貰った指輪してたら勿論彼に怒られた件!/SM
そうして存外器用な指は、あたしの薬指から、ひどく機嫌を損ねたものをするりと抜き取る。水で洗ってから付けた時に思い出した。この指輪はあたしの指には、貰った時からサイズが合っていなかった。
最後にきつく唇を吸われ、じゅく、とひどい水音を残して彼の猟奇的な唇が離れていく。鉄の味はもう随分薄くなっていた。対照的に、彼の怒りはどんどん濃くなっていく。
「昔の男?笑わせるなよ」
「あの、本当に意味はなくて、ただ好奇心と言いますか…」
カツン、と軽い乾いた音。叩きつけるように指輪を投げ捨てた音だった。部屋へ続くフローリングを転がって行った昔の指輪は、視線ですら追おうとも思わなかった。
腹の底から怒りを露にした恭介さんは、再びあたしの呼吸を奪う。力でなんか勝てるわけがないのに、あたしは怖くなって必死に逞しい体を押し返した。彼はびくともしなかったし、なんなら簡単にシャツを捲りあげられた。冷気が肌を撫でる感覚に身震いする。
「恭介さんっお願い待って!聞いて!」
返事はなかった。首までまくり挙げられたシャツの下は、下着だ。何度か体を重ねたことはあるが、こんな風に乱暴に脱がされたことなど一度もない。ひとつも話を聞いてくれないことだって初めてだ。
静かに怒りを溜める目が怖かった。乱暴な手が怖かった。
確かにあたしに非はあるけど、疚しい気持ちなんか微塵もないのに。せめて話を聞いて欲しくて、抗議の声を上げる。が、それも無駄だった。
あたしの腕を掴んだまま、恭介さんが胸の辺りまで屈んだのが見えた。しゃくしゃに丸められたシャツのせいで、顔は見えなかった。
「いっ!やめっ…!」
瞬間、びりっと鎖骨の辺りに鋭い痛みが走る。薄い皮膚を噛まれたと理解したときには、軽い火傷のような熱が広がる。慰めるように舌が這って、そのすぐ下には赤い跡が付けられた感覚。あたしの抗議の声なんか聞く気もないらしい。恭介さんの舌は好き勝手に肌を這う。這ったところには、足跡みたいに印が付けられていく。悲しくて怖くて悔しくて、ボロボロ涙が出てきた。
「どうしてっ!聞いてくれないの…」
「…優菜」
「あたし、恭介さんしかいないのに…」
頬を伝ってぽたぽた零れる雫は、鎖骨のあたりでくしゃくしゃに丸められたシャツが残らず拾う。ひくひくとしゃくり上げるあたしは、もうそれ以上意味のあることばを発することが出来なかった。
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