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愛おしいキミに極甘な林檎を
第56章 あなたを愛しているから……



「彼氏のためです。たくさん悩んでまた倒れるようなことになって欲しくないですから、悩みの種を少しでも減らしてあげたいんです」


スカートとコートについた塵をはらってから課長の方を見ると、伏し目がちにして私の方から視線を逸らした。


冷たい風がやんわりと髪を撫でてきて、その姿に友達をなくしたような寂寥感が漂っているように思えた。



「これから悩ませてしまうのに……、か……」



「…………」


「……乙羽、そろそろオレの元に来てくれないか。前にも言ったとおり、子供を孕ませてしまった責任はちゃんと取る。
別れるのにいつまでも一緒に住んでいては迷惑だろう?」



誘うように私に向けて右手を差し出してくる。


この手を素直に握れたのは、ソラ先輩に捨てられたと思ってひとりになっていた時だけ。


愛する人がいるから腕を下げたままで、この手を容易に動かすつもりはない。



「私に言うことはそれだけですか?」



「どっ、どういうことだ……?何かプロポーズの言葉でも必要だったか?」


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