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愛おしいキミに極甘な林檎を
第58章 初恋の人

「欲しいの?」
母親の強気な声が怖くてそのチョコの方を向いたままこくんと頷く。
何があって機嫌が悪いのか覚えていないけど、その声は怒っているようにも思えてとても怖かった。
「毎月お小遣いをあげてるでしょ。学校で使わないもの以外はそれで買いなさい」
「うん……」
小学生の頃、毎月もらえていたお小遣いは五十円。
裕福ではなかったから服も穴が開くまで着て、欲しいぬいぐるみや漫画雑誌も買ってもらえなかった。
そんな中、バレンタインデーだから買おうと思ったハートのチョコは百円でチョコペンは二百円。
合計で三百円で、お小遣い半年分だ。
小さな財布に入っていたお金はなんとか買えるくらいの金額で、チョコを買った後には軽くなっていた。
家に帰ってからひとりで台所に立って、ハート型のチョコレートの上に温めたチョコペンで一生懸命に文字を書く。
チョコレートに書いたのは確か、たくさんのハートマークと……
【―――くんへ。ハッピーバレンタイン】
そこまでしてあげたかった人は、あの――――
* * *
ハート型のチョコレートとチョコペンを手に持った親子が過ぎ去って行った後、他の棚を見ていた那砂さんが私の隣に戻ってきて顔を覗いてくる。
「どうしたのよ~?こんなところでいきなり泣いて。悲しい事でもあった?」

