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陰は陽よりも熱く
第2章 紅蓮の炎
「七葉、ここでじっとしてろよ…!」



奥に七葉を残して戸口に駆ける。


深手を負った爺があの物の怪に勝てるのか…?



外の様子を窺うと、思いがけないものが目に飛び込んできた。


爺の周りで龍のようにうねる水竜巻が、あの物の怪を呑み込んでいた。




『ォぉっ…のれ…老いぼれえぇっ…ッ!!』



「冥土の土産に教えてやる…我が名は門倉 源司!」


爺の足下に星のような印が光る。

「老いても土御門家の流れをくむ陰陽師…片手と口が動く限りお前なんぞには負けられんっ…!」



発光する星形の紋様と共に水竜巻の勢いは増して周囲の空間に潜んでいた低級の物の怪たちをも呑み込みはじめた。


渦の中心に在る黒い犬は炎を発射するも、水竜巻の龍の腹に消えていく。


――グォォォッ!!


狼のごとく遠吼えを響かせ、自らも紅蓮の炎に包まれた黒い犬はその炎ごと水竜巻に押し潰されて消え失せた。




物の怪を呑み込み切った水竜巻は弾けて霧雨に変化し、傷ついた陰陽師の上に降り注ぐ。



…なんてやつだ…



爺の死闘を目の当たりにしてまばたきも忘れる程見入っていた。

本気の爺は紛れもない稀代の陰陽師で…俺の師匠…



「くっ…っぅ…」


苦痛に顔を歪めて爺がぐらりと膝を折る。


「…っ爺!!」


「創護…すまなかったな…わしが油断していなければ結界の歪みに漬け込まれることもなかったんだが…」



「…いいからっ!無理に動くな!」


「わしのことより七葉ちゃんはどうした…?」


爺に肩をかして社務所の奥にいる七葉の様子を見せる。



「馬鹿者!ショック状態のレディーをほっぽりだしてじじいを助けにくるやつがあるかっ!…っ痛たた」



「源じっちゃんっ!大丈夫?!
…え…さっきの変態犬はっ? 追い払ってくれたの?」



「七葉ちゃん、こわかったろう…大丈夫かい…?」



「うん…こわかったぁ…気持ち悪かったし…でも創護と源じっちゃんが助けてくれたから、大丈夫っ!」



「そうか…―――
おや?七葉ちゃん何か落としたよ」


「へ?」




――ドスッ


「ぉ…っおい!爺」

注意を逸らせた隙に爺が七葉の後頭部に手刀を浴びせて気絶させてしまった。


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