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陰は陽よりも熱く
第1章 木立ちに佇むもの
夏が近づいているのを気の早い蝉がけたたましく鳴いて教えてくれる。



「ちょっとまってよ~…まだ5月なんですけどぉ~…この鳴き声聞くと余計に暑いぃ~!」



衣替えも済んでいない5月下旬。


教室に響く蝉の鳴き声に、クラスの大半がげんなりとしていた。



「こらこらダレるな榊!
蝉も必死なんだぞ?
なんせ土から出て一週間程度の間に婚活して結婚して出産しないとあっという間に死んじまうんだからな。」




担任教師の言葉にあたしを含むみんな興味を示した。



「ええ~っ!関ッチそれ本当?!」


「オホンッ
榊 七葉さん。関先生と呼びなさい。

蝉が一週間しか生きられないっていうのは聞いたことあるよな?

実際は幼虫のうち土の中に6年もいてそこからやっと脱皮して成虫になる。

鳴いてる蝉は今まさに焦って婚活中だ。勿論子孫を残すためにだが、残せなくても寿命は変わらん。長くても二週間だ。
相手に見つけてもらうのに必死で鳴くしか巡り会う術はない。
命がけで訴えてる訳だな。

『私はここにいます。見つけてください。愛してください。』
…と。」




「へ~そう聞くとなんかロマンチック~」



「てか関ッチ…じゃなくて関先生、なんで国語教師がそんな虫詳しいの!?」


あたしも思ったことを先に親友の蓮実が質問していた。


「イイ質問だ、二籐!国語も古典から現代文まで幅広く学んでみると、昔から蝉の短命さや鳴き声にロマンを感じる日本人は多かったんだ。
百人一首に入るような歌人で自分の名前を蝉丸とした人もいるんだぞ~。

さぁ脱線はここまでだ!教科書28ページ3段落目から…―――』






ふぅん…
『愛してください』か…



机に頬杖をついて窓の外を見やると、校舎を背にして校門に向かうひょろっとした後ろ姿が見えた。




…はぁっ?また早退すんの?アイツ



カサッ
と音がして斜め前の席から蓮実のメモが飛んできた。開くと


《門倉さっき職員室から出てくるの見たよ!
なんかやらかしたんじゃなぁい?(笑)
気になるでしょう?
幼なじみとしては!》



ニヤニヤしながら振り返る蓮実に口パクで答える。


『べ・つ・に』


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