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陰は陽よりも熱く
第3章 埋もれていた想い
笑顔でくるりと踵を返して職員室を出て行く二籐


長いストレートの髪が背中でサラサラ揺れている。



「――ぁあ~…」


コーヒーの入った自前のマグカップを手にため息が出る。



俺…ちょっと生徒に戻りたい…



若く、爽やかな可愛らしさ…

今の笑顔…同じ生徒なら間違いなく惚れてるな…



二籐 蓮実は女の子らしいどこかふんわりとした雰囲気の女子だ。


俺の授業は脱線してする話にまでしっかりと耳を傾けてくれる。



つい…頼んでしまった資料作りを、むしろ喜んでいるようにみえた。



「いやいや……」

一瞬大きく聞こえた自分の胸の響きを無かったことにする。


…大事な教え子に邪念は禁物

教師として尊敬して貰えることを喜びこそすれ、それ以上の感情は厳禁…っ!


歯止めをしっかり掛け言い聞かせる。


―――教え子の無垢な笑顔を歪ませるなんてことは―――



あってはならない



35歳独身、彼女なし歴6年…女子高生からみたら俺なんかただのオヤジだ。





事務的に午後の授業を終えて校舎に人気の少なくなった頃、空いている会議室に資料をコピーした束を運んでいた。




「ふぅ…かなりの量だな…」


会議室のテーブルに束を下ろす。


二籐はまだ…こない

会議室の椅子に座りながら待ち遠しいような気持ちを胸に抱えていた。


「馬鹿か俺は……」

嬉しそうな二籐の笑顔がずっと頭から離れずにいた。



ガチャリと金属音を立ててドアが開く。

息を切らしながら顔を覗かせた待ち人の様子に掛けた歯止めがまた緩みだした。


「はぁっ…もうっ…関ッチ会議室って…っ教えてくれないから、さがしちゃったじゃないっ!」



桃色に上気した頬で抗議しながらも笑顔の二籐

ヤバい

可愛いっ!

「…!ぉお…!悪いな、早速だがこれ端から五枚ずつ拾って閉じてくれるか」


手元の資料に目を移して早口で説明する。
なるべく直視しないように…


「ん、わかった!ホチキス借りるね」

会議室に二人きりでの作業、ホチキスのパチンという音がやけに大きく聞こえた。


二籐の手際がいいのか動揺をごまかすのに俺の手が早くなったのか作業はことのほかスムーズに進んだ。
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