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アルルの夜に始まる恋
第2章 アルルの夜
「確かそうだったと思う。サンドウィッチだけでお腹も足りないだろうし、ちょっと行ってみようよ」

小夜はパアっと顔を明るくし、喜んで行くと答えた。

ホテルの従業員に店の場所を聞いて二人はでかけた。
小夜はしっかりカメラを手に持っていた。

「なんだかドキドキするわ」

うきうきした足取りで向かう小夜を見て、ロイはあの時ほっておかないで良かったと思った。

「ほら、あそこだよ」

ロイがカフェを指差す。薄暗いアルルの夜に、人々の賑やかな声とカフェの明るい灯が路地を彩る。

「あれが・・・」

小夜は足を止め、じっとその景色を眺めた。
カメラを構えるのも忘れ、佇む。きっと頭の中は絵と現実の風景が入り乱れているに違いない。

「素敵・・・」

小夜はそう呟くと、やっとカメラを構えた。
ロイもカフェの景色を眺める。こうやって名作を現実のものとして感じられるのも、小夜のおかげだ。
小夜は何枚か写真を撮ったが、ため息をついて言った。

「なんだか・・・写真を撮るのが虚しいわ。あの絵に勝るものなんて、絶対に撮れないもの」
「そんなことはないよ。君がここにきた証じゃないか。お家に返って、絵の横に写真を並べてごらんよ。それを見て思い出すんだ。ああ、あのおかしなイギリス人と一緒に見たんだわって」

小夜はふふふと笑った。

「パスポートと現金を失ったことも思い出すわね」
「そうさ。悲劇のどん底の中で見た『夜のカフェテラス』は格別に美しかったって思い出すよ。きっと」

小夜は優しい眼差しでロイを見上げた。
カフェのオレンジ色の灯りが小夜を照らす。幻想的な小夜の姿にロイはドキリとした。

「ありがとう。本当にあなたのおかげだわ。なんてお礼を言ったらいいか・・・」

ロイは微笑み返した。

「こちらこそ君にお礼を言いたいよ。思いがけず、名作の世界に触れられた。さあ、お次は絵の中に入ってワインを堪能しようじゃないか」
「絵の中に?素敵!」

そう言ってカフェに入っていった。

二人は食事を充分に堪能した。小夜はいちいち感激し、満面の笑みを浮かべて食事を楽しんでいる。
その様子を見て、ロイも思わず微笑んだ。

隣の席に座っていた旅行者のアメリカ人の老人に新婚旅行かと聞かれ、ロイが冗談でそうだと答えると、小夜は照れて笑った。
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