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アルルの夜に始まる恋
第2章 アルルの夜
「うちにね、『夜のカフェテラス』のポスターがあったの。ちゃんと額縁に入って。父は言わなかったけど、母が好きな絵だったみたい。
古いアパートにもそれは持っていった。もうね、ぼろぼろのアパートだから、あの絵がすごく鮮やかに見えた。そこだけまるで別世界なのね。カフェのオレンジ色が眩しくて・・・。
でも、その時はそこに行きたいとは思ってなかった」
ロイが小夜のグラスにワインを注いだ。
ありがとうと小さく言って、代わりにチーズをフォークに刺してロイに渡した。
「父が再婚して、マンションを出ていった夜に、あの絵を持っていってないことに気がついたの。
ああ、父は過去を捨てて、あの人と人生をやり直したのね・・・と思ったら急に、私はなんでここにいるのかしらって思えてきて。彼ともあんな風に別れて、それまでの人生が急に色あせて見えて・・・。
次の日には会社を辞めるって言って、旅行会社に駆け込んだの。
仕事の引継ぎでバタバタして出発したから、何の下調べもしなかった。だからあのカフェが現存するのも知らなかった」
「すごい衝動に駆られたんだね」
『衝動』とう単語がわからず、小夜は首をかしげた。
ロイは’目に見えない力に動かされた’と言い換えた。
小夜が頷く。
「あの絵が描かれた場所に行きたい!って思った。ずっと別世界だと思っていた空間に行って、現実として感じたかった。なんていうか・・・手に届かないものではないって、思いたかったのね。」
ロイは頷いた。
「どうだった?現実として感じた感想は?」
「うん・・・・。あぁ、あのぼろぼろのアパートとアルルは繋がっていたんだわって思った。
上手く言えないけど・・・あの侘しい生活があったからこそアルルに憧れたわけで、あの絵が私をアルルに来させたのねって」
「そう・・・。君にとってはフランスに来ることはただ単に’旅行’ではなかったんだね。
フランスに来るということは、君が今までの自分を脱ぎ捨てて、新しい世界に飛び込むことを意味していたんだ。飛行機に乗って、入国審査をして、パリの街を歩いて・・・店でワインを買って。そういう段階を踏むことで、徐々に日本での自分を脱ぎ捨てたんだ。一枚ずつ服を脱ぐように」
ロイがそう言うと、小夜は驚いた顔でロイを見つめた。
古いアパートにもそれは持っていった。もうね、ぼろぼろのアパートだから、あの絵がすごく鮮やかに見えた。そこだけまるで別世界なのね。カフェのオレンジ色が眩しくて・・・。
でも、その時はそこに行きたいとは思ってなかった」
ロイが小夜のグラスにワインを注いだ。
ありがとうと小さく言って、代わりにチーズをフォークに刺してロイに渡した。
「父が再婚して、マンションを出ていった夜に、あの絵を持っていってないことに気がついたの。
ああ、父は過去を捨てて、あの人と人生をやり直したのね・・・と思ったら急に、私はなんでここにいるのかしらって思えてきて。彼ともあんな風に別れて、それまでの人生が急に色あせて見えて・・・。
次の日には会社を辞めるって言って、旅行会社に駆け込んだの。
仕事の引継ぎでバタバタして出発したから、何の下調べもしなかった。だからあのカフェが現存するのも知らなかった」
「すごい衝動に駆られたんだね」
『衝動』とう単語がわからず、小夜は首をかしげた。
ロイは’目に見えない力に動かされた’と言い換えた。
小夜が頷く。
「あの絵が描かれた場所に行きたい!って思った。ずっと別世界だと思っていた空間に行って、現実として感じたかった。なんていうか・・・手に届かないものではないって、思いたかったのね。」
ロイは頷いた。
「どうだった?現実として感じた感想は?」
「うん・・・・。あぁ、あのぼろぼろのアパートとアルルは繋がっていたんだわって思った。
上手く言えないけど・・・あの侘しい生活があったからこそアルルに憧れたわけで、あの絵が私をアルルに来させたのねって」
「そう・・・。君にとってはフランスに来ることはただ単に’旅行’ではなかったんだね。
フランスに来るということは、君が今までの自分を脱ぎ捨てて、新しい世界に飛び込むことを意味していたんだ。飛行機に乗って、入国審査をして、パリの街を歩いて・・・店でワインを買って。そういう段階を踏むことで、徐々に日本での自分を脱ぎ捨てたんだ。一枚ずつ服を脱ぐように」
ロイがそう言うと、小夜は驚いた顔でロイを見つめた。