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アルルの夜に始まる恋
第3章 パリの小さな夜
ボーイが荷物を運ぶ。
重厚なエレベーターに乗る。
本来なら小夜はいちいち感激の声をあげているはずだったが、じっと黙って立っていた。

やはりリサの毒がたっぷり塗られた棘が小夜に刺さったままなのだろう。

しかし、部屋に入って、小夜はそれまで黙っていた口を開き、感嘆の声を上げた。

「わあ・・・」

必要以上に広いスペースに、高級な家具がバランスよく配置され、大きなシャンデリアが部屋を暖かく照らし、ベッドやカーテンの生地の光沢を浮かび上がらせ、大きな窓からはパリの街の灯りが見える。

小夜は信じられないと言った表情で部屋を見回した。

「ロイ・・・私・・・」

小夜は戸惑ってロイを見上げた。
ロイは笑って小夜の顔を覗き込んだ。

「気に入ってくれた?」
「気に入るもなにも・・・」

そう言うと、ため息をついて再び部屋をぐるりと眺めた。

「なんだか・・・夢みたいだわ」
「気に入ってもらえたなら良かった」

ロイはボーイにチップを渡し、小夜の肩を抱いた。
小夜はもう一度ため息をついた。

「・・・こんな格好でくる所ではないわね」

ロイは小夜をソファに座らせて、自分も並んで座り、小夜の手を取った。

「君はそのままで充分だ」

ロイは本心でそう言ったのだが、小夜は慰めとして言ってくれたと思っているようだった。
ロイをじっと見ると、少し笑った。

「あなたには・・・さっきの人みたいな、綺麗な女性が似合うわね」
「リサのこと?たとえリサがどんなに綺麗だとしても、僕はごめんだ」
「あの人の性格は良く知らないけど、そうじゃなくて、あの人みたいにゴージャスでエレガントな雰囲気の人と歩いていないとおかしいって気がついたの。馬鹿ね、私ったら今頃気がついて・・・」

ロイは、小夜が自分との距離を広げてしまったことを察知した。
アルルではあんなに近くに感じていたのに・・・。

「小夜・・・君は、着飾ることがそんなに大事だと思う?」
「そうじゃないわ。そうじゃなくて・・・」
「・・・わかった、じゃあ、今から買い物に行こう」

そう言って小夜の手を引き立ち上がらせた。

「え?」
「ついでに美容室にも」

ロイは強引に小夜の手を掴んで部屋を出た。

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