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アルルの夜に始まる恋
第3章 パリの小さな夜
シャンゼリゼはイルミネーションで光り輝いていた。
ロイに手を引かれて、小夜は歩きにくそうにヒールと格闘していた。

「何が食べたい?」
「なんだか胸がいっぱいでお腹がすかないわ」
「それは困るな。綺麗な君を見ながらワインを味わうのを楽しみにしてたのに」
「なによ。最初からワインのことしか考えてなかったのね」

そう言って笑った。
少女のように白い頬をピンク色に染め、嬉しそうに笑いロイの手を握る小夜を、この上なく愛しく思った。

(帰したくない・・・小夜を日本に帰したくない・・・)




二人は三ツ星レストランでディナーを楽しんだ。
ほどよく酔いもまわり、小夜は良く笑った。
一層美しくなった小夜にロイは言った。

「なんて綺麗なんだ・・・」

小夜はふふふと笑った。

「もう、何回も言わなくていいわ」
「そう?そんなに何回も言ったかな?」
「数えられないくらい言ってるわ。あんまり言い過ぎると、嘘に聞こえるわよ」
「ひどいなあ。本心で言ってるのに。まだ言い足りないくらいだ」

ウェイターがロイのグラスにワインを注ぐ。

「・・・ねえ、あなたの話を聞かせて」

小夜が、ロイをじっと見つめた言った。

「僕の?何が知りたい?」
「どんなところで育ったのかとか・・・家族のこととか・・・」

ロイはワイングラスを眺めた。

「生まれも育ちもロンドン。一日中紅茶を飲んで、サッカーを見て、オアシスを聴いて寝る」

適当に答える。

「もう、真面目に話してよ」

小夜がふくれっ面で言う。
ロイは肩をすくめた。

「話すほどのことは何もないよ。家族は・・・父と母と兄。それから犬が二匹」
「お兄様がいるのね」
「そう。だから僕は比較的自由が許されてるんだ。兄はずっと真面目な男だから、僕は安心して手を抜いていられる」

ロイは兄の神経質そうな顔を思い出した。
彼は自分以外の人間に徹底的に興味がない。家族に対してもだった。
ウォルター家の長男として、忠実に生活している。ロイはそんな兄をあまり好きではなかった。

ロイのことなど、自分の二番手とすら思っていない。兄にとって自分はいてもいなくても同じなのだ。

「ロンドンか・・・。パリとはまた違うのよね」

小夜がぼんやりと店内の照明を見上げながら言った。

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