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アルルの夜に始まる恋
第1章 いくつかの偶然
「・・・失礼ですが、これからどうするおつもりですか?その、3ユーロしか持っていないのですね?」

女性は少し恥ずかしそうに笑って言った。

「はい・・・。でも、ユーレイルパスと航空券は盗られませんでした。だからなんとか日本には帰れます」
「ユーレイルパス?」

ロイは初めて聞く単語を口にしてみた。

「はい。あの・・・なんて言えばいいのかな。・・・’電車の乗り放題券’です」

ああ、とロイは頷いた。

「じゃあ、これからそのパスを使って、電車で空港へ向かうのですね?」

ロイは駅の方向を教えてあげようと思って聞いたのだが、返ってきたのは予想外な答えだった。

「いいえ、これからアルルに行くんです」

女性ははっきりとした口調で答えた。

「アルル?」
「はい」
「・・・そのパスはTGVも乗り放題なの?」

TGVとはフランスの誇る高速鉄道のことだ。日本でいう新幹線である。
アルルはフランスのプロヴァンス地方に位置する。パリからずっと南だ。

TGVか飛行機で行かないのなら、かなり時間がかかるだろう。
女性はハッとしてガイドブックらしきものを慌てて読み始めた。

「TGVは・・・・別料金が必要です・・・」

そう日本語で言うと、黙ってしまった。

ロイはその様子で察し、もう一度尋ねた。

「良かったら・・・少しお渡ししましょうか?」

失礼かと思ったが、それが一番親切な気がしたのだ。
女性は、悲しそうな顔で笑い、首を振った。

「いいえ、とんでもないです。アルルにはTGVを使わなくても行けますよね?時間はかかるかもしれないけど」

ロイは不思議に思った。
パスポートを失い、現金もないというのに、どうしてそこまでしてアルルに行きたいのか・・・。

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