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アルルの夜に始まる恋
第1章 いくつかの偶然
女性をじっと見つめる。黒く長い髪に、黒く大きな目。
前髪が目の上で揃えられていて、幼く見える。

ただでさえ日本人は幼く見えるが、それを踏まえても10代にしか見えない。
茶色い皮製の大きな鞄をかかえ、紺色のあまり暖かそうではないコート、細身のジーンズにスニーカーといった服装だった。おそらく学生だろうとロイは思った。

今からTGVを使わずにアルルに行くのは無理だろう。パリで泊るか、途中の駅で泊まるかだ。
しかし、3ユーロではホテルに泊まることもできない。

野宿?とんでもない。
日本人の女性が1人で野宿などして、何が起こるかわかったものではない。

ロイが現金を渡そうとしてもきっと受け取らないであろう。
かといってこのままほっておくことはロイにはできなかった。

ロイは思い切って言った。

「では、私も一緒にアルルに行きましょう」
「え?」

女性が驚いてロイを見上げる。

ロイは迷っていたが、口にしてみると、それが大したことではなく、一番自然なことのような気がしてきた。
どうせゆっくり過ごすつもりでフランスに来たのだ。アルルには行ったことがない。
この機会に行ってみてもいいと思った。

「そうと決まったら急ぎましょう」

そう言ってタクシーを再びつかまえた。

「あの、ええ!?ちょっと待ってください」

女性は突然のロイの提案に困惑し、慌てた。
タクシーが止まり、女性を先に乗せてからロイはリヨン駅へ向かうように言った。

「あなたがアルルに行く必要ないです。どうか、私のことは気にしないでください」

女性はロイにすがるように訴えた。
ロイはもう決めていた。

ほっておけないなら、とことんつきあうまでだ。
アルルへ行って、再びパリに戻ってくる。ただそれだけだ。

「お金もなく、どうやってアルルに行くつもりですか?仮にTGVを使わずに行ったとして、食事はどうするんです?ホテルは?女性が野宿するのをほっとくなんて私にはできません」
「でも・・・」
「私のことは気にしなくて大丈夫ですよ。私はイギリスから来ましたが、今回のフランス滞在中に南仏にも行こうと思っていましたから丁度いい」

ロイは嘘を言って、女性が少しでも気兼ねしないように心がけたが、それは嘘とバレているようだった。

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