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アルルの夜に始まる恋
第1章 いくつかの偶然
ロイは予想外に自分がわくわくしていることに気がついた。

TGVに乗ったことがなかった。フランスに来たらほとんどパリで過ごすし、南仏といえばニースに行ったことがあるが、ニースにも飛行機で行くからだ。

一等の席を二人分取る。
女性はあたふたとしてロイの後に続く。

「お腹すいてる?」
「え?いいえ、あの」

ロイは聞いておきながら、無視して駅構内のサンドウィッチ屋に寄った。
ツナのサンドウィッチとハムとチーズのサンドウィッチを買い、コーヒーも二つ買った。

ホームに移動すると、二人が乗るTGVがちょうど滑り込んできたところだった。
なんだか少年の頃に戻ったようにわくわくしてロイは微笑んだ。

一等の席はさすがに大きく、ゆったりと座ることができた。
テーブルの上に先ほど買ったサンドウィッチとコーヒーを乗せる。

「実はTGVに乗るのは初めてなんですよ。なんだかわくわくしますね」

ロイは女性を窓際に座らせ、自分もコートを脱いで座った。

「ええと・・・あ!そういえば、あなたの名前を聞いていなかった」

ロイはハッとして言った。

女性はその言葉にやっと気をゆるしたような笑顔を見せた。
ふふふと笑って両手で口を抑える。

「あなたって、おかしな人ね」

思ったより可愛らしい笑顔に、ロイもつられて笑う。

「なぜ?」
「だって、名前も知らない私をここまで強引に私を連れてきて・・・。アルルにまで一緒に行ってくれるなんて」
「’おかしな人’なんて、初めて言われたな」

女性は、しまったといった風に照れて謝った。

「ごめんなさい。親切にしてくれてる人に対して失礼なこと言ってしまって」
「違うよ。嬉しいんだ。私にとっては褒め言葉だ」

そう言ってコーヒーを手渡した。

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