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月夜の迷子たち
第7章 忍び寄る闇
「まあ、いいわ。はっきり言うと、お金に困ってるのよぉ。主人が去年会社辞めて仕事がなかなか見つからなくて。家のローンも子どもたちの学費もお稽古代もあれこれあるのにクビになって…本っ当ーに困ってるのよ。あなた、絵を売ってるんですって?凄い売れっ子らしいじゃない!絵描くの上手だったもんね。ほら母の日に・・・・・」
「そういうことならお断りします」

紗奈は母の声を遮って言った。怒りで声が震える。

「もう連絡しないでください」

母が電話の向こうで馬鹿にするように笑った。

「あらあら、もういい大人なのにみっともないわねぇ・・・・。昔のこと引きずって。血を分けた弟達が可哀想じゃないの?」
「・・・・・・」

紗奈が受話器を下ろそうとすると気配を感じたのか、母が大きな声をあげた。

「そこにハーフの双子がいるでしょ!?その子たち、スウェーデンかどこかの王族の隠し子なんですってね!マスコミにいくらで売れるかしら?」

(ハーフの双子・・・・・)

レイアのことだ。紗奈は驚いて再び受話器を握りしめた。背筋に冷たいものが走る。

「・・・・・どういうこと?」

母の辛辣な笑い声が耳元で聞こえ紗奈の胸に嫌悪感が広がる。

「王子様の隠し子だったら、マスコミに売ったりしないで、直接そっちに声かけた方がお金もらえそうね」
「何言ってるの・・・・・!?馬鹿な真似はやめて!!」
「だったらあなたが助けてよぉ。私だって面倒なことは嫌なのよ。あなたが助けてくれたらそれでいいんだから。ね?」

母の甘ったるい声に眩暈がした。
紗奈は目を手で押さえて耐えた。

レイアたちをゆすると言っているのだ。
どうしてそんな情報がこの人に・・・・・?

それが本当であれば、レイアたちはどうなってしまうのかと紗奈はとうとう冷静さを失って動揺を露にした。

「一体どこからそんな・・・・・」
「それは言えないわ。どうなの?助けてくれるっていうなら今日にでも振り込んで欲しいんだけど。あなたがダメなら双子の・・・・・宮森・・・・・・レイアって娘に会いにいくわ。働いているテニスクラブも住んでる場所も知ってるから」

紗奈は葛藤していた。レイアの件の真意はどうあれ、もし紗奈が断ったら間違いなくこの人はレイアを脅しにいくだろう。

レイアと玲央の微笑み合う姿が頭に浮かぶ。

(そんなこと絶対させられない・・・・・・!)
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