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月夜の迷子たち
第7章 忍び寄る闇
紗奈の長瀞の家に着いた頃にはすっかり日が暮れて、あたりは真っ暗だった。

コテージに明かりが点いていない。

(ここにいないのか・・・・・・?)

祐哉は不審に思いながらもドアに手をかけた。

軽く手で押すと、キィ・・・・・・と音が鳴って扉がゆっくり開いた。

音も無く、人の気配が感じられなかった。
雲の中から月が顔を出し、窓から光が差し込んだ。

人の姿が突然目の前に現れドキリとする。

紗奈が大きなキャンバスの前で脱力して座り込んでいた。筆が床に多数転がっていた。
手はだらりと垂れ下がり、キャンバスを見上げる目に力が無かった。

異様な雰囲気に祐哉はそっと紗奈に近づいた。

紗奈は祐哉が側に来ても気がつかなかった。
まさに魂ここにあらずといった様子で呆然としている。

「紗奈・・・・・・・?」

顔を覗き込む。生気がなく顔は真っ青で唇も色が無い。

「紗奈!?」

祐哉は紗奈の腕を掴んで揺さぶった。

紗奈は、ぼんやりと祐哉の顔を見上げた。

「どうした!?」

紗奈の目にみるみる恐怖が広がった。
まるで祐哉が恐ろしい化け物にでも見えているかのように怯えた。

「しっかりして!俺だ!祐哉だ!紗奈!?」

紗奈は後ずさりして祐哉から離れた。

「私・・・・・・私・・・・・・・・・」

紗奈の呼吸が乱れる。自分の両手をまじまじと見つめた。
手がぶるぶると震えだした。

「絵が・・・・・・絵が描けない・・・・・!描けない!」
「・・・・・・・!」

心を引き裂かれるような悲痛な叫びだった。
口に出したことでそれを現実と受け止めたのか、呼吸が乱れてくる。

「どうしよう・・・・・・どうしよう・・・・・!絵が描けなかったら・・・・・わ、私・・・・・・!」
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