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月夜の迷子たち
第8章 物語の続き
五日ほどで退院出来た。祐哉は紗奈の体調が完全に回復するまで一緒にいると言って聞かず、長瀞のコテージに居座っていた。

一人で大丈夫だと何度も断ったが、祐哉の決意は固かった。仕事は征哉が祐哉の分もやると引き受けてくれたから大丈夫だと言うのだが、そうやって皆に迷惑をかけていることが申し訳なく祐哉に何度も東京に戻るよう促したが無駄だった。

コテージでの祐哉との生活が始まった。

二人で買い物に行き、一緒に食事を作り、食べて、二人で片付ける。
散歩へ行ったり、ドライブへ行ったり、別荘に祐哉の馬を見に行ったりした。
雨の日は本を読んだり、チェスを教えてもらったりして過ごす。

ずっと都会で暮らしてきた祐哉にとって、長瀞の田舎での生活が楽しくて仕方ないようだった。

夜はほとんど使われていなかったシングルサイズのベッドで二人で眠った。
キス以上のことはせず、祐哉に抱きしめられながら眠る夜は、安心感に包まれていつも幸せを感じる。

絵は相変わらず描けなかった。一度キャンバスに向かってみたが、手が動かなかった。

祐哉は焦らないでいいと言ってくれた。


母のことは気にするなと言われても、そういうわけにはいかなった。
祐哉が電話で話した時の録音データを持って、俊が弁護士と赴いて話をつけてきてくれたとのことだった。

レイアの元には訪れておらず、その後中園の家にも一切連絡は無いと聞いてようやく安心した。

二人で朝食を食べる。絵を描かなくなって、祐哉と暮らしているうちに毎日三食をきちんと食べ、睡眠もちゃんと取り、規則正しい生活になった。体調はすっかり良くなっていた。

朝食を食べ終わって片付けようとしていた時だった。
トントンとドアを叩く音が聞こえた。
まだ朝の8時だ。一体誰だろうと祐哉と顔を見合わせる。

祐哉がドアを開けると、ショートヘアの女性が一人立っていた。
白の細身のパンツに、鮮やかな緑のジャケット姿のスタイルの良い女性だった。

「おはよう」
「母さん!」

祐哉の言葉に紗奈は慌てて立ち上がった。

「どうしてここに・・・・」
「朝早くからごめんなさいね。空港から直接来たのよ。素敵なところね。お邪魔しまーす」
「ちょっと・・・・・!」

祐哉を押し退けて遠慮なくコテージに入る。
祐哉が大きなため息をついて紗奈に目配せした。ごめん、と謝っている。
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