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月夜の迷子たち
第8章 物語の続き
「でもね、私、身体がたくましかったから、はちゃめちゃに働いてね。英語が少し出来たから英語も一生懸命勉強して、外国のお客様のおもてなしも頑張って。庭の木の剪定もしたし、壊れた家具やら家の補修なんかもして。小さい頃から貧乏だったからね、自分たちでやるしかなかったから色々出来たのよ。しずしず、おほほほ・・・・・みたいな女性しか知らなかった主人はいつのまにか私に夢中になっちゃって」
「お姑さんは許してくれたのですか?」
「ううん、結婚して征哉や祐哉が生まれてもずーっといつ離婚するんだって聞かれたわよ。見合い相手の写真持ってきたりね。でもね病気をして体が衰えてくるとね、だんだん言わなくなって。人を嫌うってパワーが必要みたい」

澄子は祐哉たちの祖母のことを思い出したのか少し寂しそうな顔をした。

「お義母さんの面倒、子供たちは全然看ないのよ。そりゃそうよね。生まれた時からお手伝いさんになんでもやってもらって、自分が誰かの面倒見るなんて出来るわけないのよ。それでも話し相手になるぐらい出来ると思うじゃない?それが、嫌なのよね。威厳のあった母親が弱って老いた姿、見たくないみたいで」

紗奈は祐哉たちの祖母の肖像画を思い浮かべた。
小柄だが目力のある女性だった。そこに笑みは無く、威厳が保たれた姿だった。

「人は生きてきたようにしか死ねない・・・・・って言うじゃない?死に様がその人の人生を表しているっていうのかしらね。お義母さんのところに子供たちが会いに行かないっていうことは、それがお義母さんがどう生きてきたかってことに繋がってるのよね。でもね、それは母親としての生き方に焦点を当てたらそうかもしれないけど、嫁という立場になるとまた違うのよ。戦後の激動の時代を中園の当主の妻として一生懸命やってきたのに、旦那はそこらじゅうに愛人がいるし、大事な息子は変な嫁連れてくるし、お義母さんだって辛かったし寂しかったに違いないのよ。そう思ったらね。お義母さんの最期、ちゃんと幸せを感じて欲しいなって思ったの」

紗奈は澄子の凛とした横顔に魅了された。
澄子の器の大きさに圧倒されたと言ってもいい。
先ほど会ったばかりなのに、澄子のことが既に大好きになっていた。
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