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月夜の迷子たち
第8章 物語の続き
「母に・・・・・母に愛して欲しかった・・・・・・!母に褒めて欲しかった!いい子だね、かわいいねって・・・・・抱きしめてほしかった・・・・・・!」

身体の奥から搾り出すような悲痛な叫びだった。
紗奈は耕太にも香織にも祐哉にも絵の師匠にも言葉にして言ったことのなかった気持ちを吐露した。

澄子が肩を震わせてむせび泣く紗奈を抱きしめた。
紗奈は澄子にすがり付いて号泣した。

どんなに拒絶されても母を求めた。
愛してほしくて、子供なりに出来ることをあれこれ試しては拒絶される。
それでも何度でも愛を求める。そして失望するの繰り返し・・・・・・。

そのあまりに深く大きな傷は癒えることなく、紗奈の心の奥にずっと残ったままだった。

その傷を思いっきりさらけ出した。
澄子は何も言わずに背中を撫でさすってくれた。

涼しい心地よい風がサァ・・・・・と吹いて穏やかな水面に波を立てた。
紗奈の涙が落ち着くまで澄子は黙って抱きしめてくれた。

紗奈は澄子の服を涙で濡らしていることに気が付いてハッとした。

「ご、ごめんなさい・・・・・・!」

身体を離して手で涙を拭った。
どうして先ほど会ったばかりの澄子にここまで自分の本心をさらけ出してしまったのだろうと急に恥ずかしくなった。まるで魔法にかかったみたいだった。

「えー?もうやめちゃうの?」

澄子は征哉そっくりな口調で言った。

ジャケットのポケットからハンカチを取り出して紗奈の涙を拭いた。

「すぐに家族になれないように、すぐに家族をやめることはできないわ。でも大丈夫。時間がかかるのは覚悟の上よ。紗奈ちゃんが抱きしめてほしかった分、私がこれからあなたを抱きしめるわ」

澄子は紗奈の目をじっと見つめて言った。

「私の娘になってくれる?」

澄子の優しい囁きに、紗奈は胸がいっぱいになり言葉を失った。

「やだ、プロポーズみたいね」

澄子は、あははと笑った。

祐哉と出会って、想いが通じ合っただけで十分幸せだというのに、こんな素敵な母親まで出来てしまった。

この人の娘になりたい。心の底から思った。
自分を縛り付けていた、消したくても消えなかった母の面影がすっかり消えうせた。

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