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月夜の迷子たち
第8章 物語の続き
「ごめん・・・・・・もっと優しくするつもりだったのに・・・・・・・」

祐哉が申し訳なさそうに言う。
紗奈はううんと首を振った。

「・・・・・ずっと我慢させちゃって、ごめんなさい」
「これから取り戻すからいいよ」
「取り戻す?」
「君の身体が許す限り、一日に何度でも。まずは明日はベッドから出られないと思っていてほしいね」

紗奈はぎょっとして思わず祐哉から身体を離した。

「冗談だと思ってるだろ?本気だよ」
「そんなの・・・・・無理よ。祐哉さんだって・・・・・・」
「無理かどうか、実際に試してみないとね」

更にぎょっとする紗奈を見て祐哉は笑うと、起き上がって紗奈の完成した絵を見上げた。

「・・・・・素晴らしい」

祐哉は感嘆のため息をついた。
紗奈は少し恥ずかしくなりながらも、祐哉の隣に立って一緒に絵を見た。

夕暮れ時、清流に倒れている一人の男の絵。
紗奈があの時みた光景そのままを描いた。

長瀞の豊かな自然、木々の隙間から差し込むオレンジ色の光。

誰かの絵を真似たのではなく、自分の描きたいように描くことができた。

自分の住む世界に、突然やってきた一人の男。
彼によって、自分の人生は大きく変化した。
二人の物語の1ページ目をどうしても描きたかった。

「君は水のある風景を描くのが好きって言ってたけど、これはその集大成だな。構成も、光も、川の流れの描写も、どれも素晴らしい」
「倒れてるところを絵にするなんて、不謹慎かと思ったんだけど・・・・・どうしても描きたかったの」
「不謹慎だなんて感じなくていい。傑作を描くきっかけになったんなら光栄だよ」

祐哉は紗奈の手を取って甲にキスした。

「そんな風に甘やかしていたら、私ダメな人間になっちゃうわ。もっと厳しくして」
「甘やかしてないよ。真実を口にしたまでだ。君はきっと歴史に残る画家になる」
「もう、やめてってば!」

紗奈は祐哉の度が過ぎる賛辞に耐えかねて祐哉の口を両手で塞いだ。
祐哉が笑いながら手を取りチュと唇に軽くキスした。

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