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月夜の迷子たち
第8章 物語の続き
「中園祐哉、あなたは松代紗奈を妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」

爽やかな風が吹き、木々がサァ・・・・・・と音を立てて揺れる。

祐哉の凛とした声が、風に流れて長瀞の緑の中へと広がっていった。

「松代紗奈、あなたは中園祐哉を夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「・・・・・・誓います」

征哉に促されて指輪の交換をする。
祐哉は高価な指輪を買おうとしてくれたが断った。
シンプルな装飾のないシルバーの指輪を二人で買った。

紗奈の自分自身への戒めだった。
祐哉と結婚したら、それまでよりも裕福な生活になるのは間違いない。

中園の家の人間として認められるよう努力をしなくてはと思う一方で、今までの質素な生き方を忘れないでいたかった。

そこには瑠花への想いがあった。
これまでの自分を忘れないでいることこそが、彼女へのせめてもの配慮だと考えたのだ。
彼女は恐らく、祐哉と結婚したことで贅沢を謳歌しようものなら、紗奈を軽蔑するだろう。
そしてそんな女に自分は負けたのかと、自尊心が傷つけられてしまうに違いない。

瑠花はあの後すぐに、パリに留学したと聞いた。
紗奈のことなど、もうどうでもいいと思っているかも知れない。
こんなことは完全なる自己満足なのだが、それでも瑠花の存在を忘れたくなかった。

自分の幸せの反対側に、彼女の悲しみがあったことは間違いないのだから・・・・・。

先に祐哉が紗奈の薬指に指輪をはめ、次に紗奈が祐哉の薬指に指輪をはめる。
手が震えてスムーズにはめられない。

祐哉がクス・・・・と笑った気がした。

参列者は少ないとはいえ、祐哉のように余裕のある振る舞いはできない。
紗奈は祐哉を責めるように見上げた。

祐哉の優しい眼差しが見えて、責める気持ちも一瞬で掻き消える。
君が愛しいのだと訴えかけていた。

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