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月夜の迷子たち
第9章 【第二部】マスカレードの夜に
征哉の叔母の和子が入ってくるのが見えた。年配者は仮面をつけないのですぐにわかった。和子もまた美しく可愛いものを愛でることが大好きな女性で、若い男女が集うこういった華やかなパーティーには率先して出向く。世間知らずの夢見る少女がそのまま大人になったような人だった。

和子は着物を着ていた。淡いグリーンの着物は和子の穏やかな表情に良く似合っている。
征哉たちよりずっと早くからこの会場に来て、足を悪くしてから表に出てこなくなった鴻池夫人に挨拶をするのが恒例で、長話が終わって会場にようやく入ってきたのだろう。

挨拶が終わり、皆の拍手が起こると同時に和子の元に一人の女性が駆け寄った。

「・・・・・・・」

俊は一瞬息を呑んだ。
和子と話をしている女性から目が離せなかった。

ロココ調の大量のフリルが施された薄い水色と白のドレスを着た、美しい艶やかな茶色の髪の女性・・・・。

目元だけを隠す白いマスクから見える瞳は大きく開かれ、好奇心旺盛に光り輝いていた。
艶やかなピンク色で、上唇は薄く、下唇はぽってりと厚くチューリップの花びらを思わせる愛らしい唇。マスクから出た頬からあごへの美しいカーブはギリシャ神話の女神を想わせる。

大きく開いた胸元は、触れなくとも手に感じられるほどに美しく滑らかで、コルセットで締められたウェストは細く、豊かな胸をよりいっそう強調していた。

あまりに彼女に魅入っていたため、俊は指揮者が立っていることにすぐに気づくことができず、出遅れてしまった。

いつもの冷静な自分を取り戻そうと必死に音楽に集中するが、頭から女性の残像が消えない。

さっと視線を走らせたが、先ほどの場所にはもう彼女の姿はなかった。


たくさんの人々がワルツを踊り、部屋をあちらこちらと行き交っている。
まるで映画の世界のようだった。

和子の知り合いにあんな女性がいただろうか・・・・・。

彼女と同じような格好をしている女性は他にもいたし、むしろもっと色鮮やかで豪華なドレスを着ている人もいるというのに・・・・。
強烈に人を惹きつける魅力は普通ではない。

彼女の魅力に気がついたのは俊だけではなかった。
次第に彼女はセンターであらゆる男性とダンスをするようになり、皆の注目を集め始めた。

和子の満足そうな笑みが見える。まるでこうなることを予期していたかのようだった。
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