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月夜の迷子たち
第9章 【第二部】マスカレードの夜に
あれだけの美女を征哉が見逃すわけがなかった。征哉は颯爽と女性の前に現れ、洗練された身のこなしでワルツのリードをとった。
征哉があれこれ話しかけているのがわかる。珍しく本当に楽しそうな表情をしている。
女性の方も愛らしく目を輝かせて笑っている。

俊の胸にチリ・・・・と嫉妬の炎がわずかに浮かぶ。

(馬鹿な・・・・・!言葉を交わすどころか、目も合わせていない相手に何を・・・・・)
俊は初めて湧き上がる感情に戸惑いながらも、ヴァイオリンを弾き続けた。

無我夢中で音楽に集中した。何曲弾いたのか、何を弾いているのかわからなくなっていた。

15分の休憩が言い渡された時、俊はすっかり体力も精神も消耗していた。気楽に演奏するつもりがなぜこうなったのか。

「俊!」

征哉がシャンパンを持って俊のもとへやってきた。目がキラキラと輝いている。

「おい、和子叔母が連れてきた彼女、見たか!?」
「・・・・・・・」

俊はハンカチを取り出して額の汗を拭いた。

「飲めよ」

征哉が気を使ってシャンパンを渡してくれた。果たして奏者が飲んでいいのかわからなかったが、俊は一気に飲み干した。

「彼女、面白い!とんでもない美人なうえ、スウェーデン語を話すんだぜ!英語はいっさい話せないのに!」
「そうですか・・・・・良かったですね」

俊は胸に湧き上がる感情を抑え付けて冷ややかに言った。

「日本とスウェーデンとのミックスのようだな。あれだけ美人なのにすれてないというか・・・・天然というか・・・・。めちゃくちゃ食べるし。ワルツも初めてで何度も足踏まれたけど、全然悪気ないのがまたいい。とにかくお前も踊ってこいよ」

俊はギロ・・・・・と征哉を睨んだ。

「私には仕事があります。征哉さん、お気に召したならいつものように連れて消えたらどうです」
「和子叔母の知り合いにそんな軽い気持ちで手が出せるかよ。親父の罠かもしれないってのに」

征哉は何度も父親に良家の娘との見合い話を持ち出されてうんざりしているのだった。
本人には全く結婚の意志がないのだが、征哉の父親はおかまいなしに縁談を持ち込んでくる。

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