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月夜の迷子たち
第9章 【第二部】マスカレードの夜に
「しかし、さすがだな。詳しいことは知らないが、ずっと隠れていた姫君が表に出てきたとたん誰よりも素早く奪っていったんだろ?」
「今回ばかりは自分の能力を褒めてやりたいですね。他の誰かに奪われなくて良かった。例えばあなたとか」
「けっ!鴻池の人間と結婚なんか、死んでもするかよ」

征哉は悪態をついてカクテルを飲み干した。
誰かに聞かれたらどうすると俊が慌てて征哉を制した。仮にも鴻池家主催のパーティだというのに。

清人は大笑いして頷いた。

「そんなことが言えるのは征哉さんだけでしょうね」

俊はこの大河清人という人物についてそこまで深く知らないのだが、この笑顔を見て、どうも以前見かけた時と印象が違うように感じていた。表情が柔らかくなった。
それは征哉も同じだったようだ。

「彼女とは踊ったか?」

征哉が先ほどの女性にグラスを向けた。複数の男性に囲まれて談笑している。

清人が「ああ・・・・」と意味ありげに微笑んだ。

「昔の私なら間違いなく声をかけたでしょうけど」
「・・・・・なんだ。つまんねーなぁ。まさか結婚したからって、プレイボーイ卒業か?」
「そうなりますかね。妻と出会ってから他の女性に目がいきません」

征哉が目を丸くしている。
自分にふさわしいと見定めた女は必ず落とし、一口二口味見しては捨て、次の獲物を探し、そんな自分に酔っていたナルシストの面影がどこにもない。

他の奏者が次々と席に戻ってきた。
征哉が楽譜をペラペラとめくりながら言う。

「で、難攻不落の君を落とした名手はどこにいる?紹介しろよ」
「生憎体調が悪いんです」
「まさか・・・・・・。お前、父親になるのか?」

清人は返事の代わりに柔らかな笑みを征哉に向けた。

「今度妻を連れて中園邸に遊びに行かせてください」

征哉はフンとあごを反らせてヴァイオリンをかまえて調律を始めた。

「鴻池の姪に大河の息子か。親父が喜びそうな組み合わせで吐き気がするぜ」
「喜んでおもてなしさせていただきます、と言っております」

俊が慌てて清人に頭を下げる。
清人がクスクスわらって、いいよと手を上げた。

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