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月夜の迷子たち
第9章 【第二部】マスカレードの夜に
「やっぱり!?そうよね。さっきから踊る人みんなに『お上手ですね』って言われて最初は冗談かと思ったけど・・・・あまりにも皆そう言うからワルツって足を踏むのが正解なのかしらって思ってたとこなの!あー良かった。やっぱり下手よね。ふふふ・・・・・ごめんなさい」

ごめんなさいと言いながら本心で謝ってるように見えない。そこがまたチャーミングで一瞬見惚れてしまう。

「和子さんがね、上半身に力が入ってると格好悪いからリラックスしなきゃだめって。でも、そうすると足のこと気にしなくなっちゃって、ついつい踏んじゃうのよね」
「少しは気にしてください」

俊は基本的なステップを教えることにした。俊も決してダンスが得意なわけではないが、よくここまで出来ないで皆と踊る気になったものだと別の意味で感心した。

「あなたは・・・・・和子様のお友達、ですか?」
「ええ、はい。そうです」
「いったいどこで?華道か・・・・茶道でのお知り合いですか?」
「それは言えないの。和子さんとの約束で」

(言えない・・・・・?なぜ?)

「では・・・・・今日はなぜここに?」
「なぜって?和子さんに誘われたからよ。なんか楽しそうだなと思って」

彼女のグレーの瞳を見ないようにすると、彼女の白い胸元に目がいってしまう。
俊は視線を空へ彷徨わせた。
ほのかに甘い香りが流れ俊の鼻腔をくすぐった。

「恋の相手を探しに・・・・ではなくて?」

自分でも驚いていた。普段自分は女性にこんな質問をするような人間ではない。

「恋の相手?まさか。それはあなたの方じゃないの?」

言われて、俊は心外だという表情を隠さなかった。

「私が?私はもともとヴァイオリンの奏者として呼ばれて来たんだ。こうやって・・・・踊るつもりもなかった」
「あら、だって和子さんが言ってたんだもん。あなたは失恋したばかりで落ち込んでるから、今日は立ち直るためにここに来ているって。だから踊ってあげて欲しいって」

俊はさきほどの和子の言葉を思い出した。

こういうことだったのか。そして全てを悟った。征哉だ。征哉が和子に嘘の理由を述べて俊とこの女性を踊らせようと目論んだのだ。

征哉がヴァイオリンを弾きながら自分たちをニヤニヤして見ている姿が想像できて俊は冷静さを取り戻した。

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