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月夜の迷子たち
第10章 抗う心
「有能な秘書を持って俺は幸せだよ」
「考えてみろ。怪我をして助けた男が中園の次男だと知って、そこにつけ込まれたらどうする?彼女にしろ叔父にしろ、しめたものだと調子に乗らないと言い切れるか?逆の可能性だってもちろんある。征哉さんの提示したあの金額で、お前から依頼が来たと知って、とんでもないと断ったら?あんな山奥でひっそり暮らすなんて、面倒なことが嫌で俗世から離れたいという願望の表れじゃないか。お前がどんなに希望したって、彼女がやりたくないと言ったらそれまでなんだ。いずれにせよ慎重にすすめる必要がある」
祐哉は受け取ったサンプルの絵に視線を落とした。
「そうか・・・・そうだな・・・・悪かった」
ルノワール、シャガール、ダ・ヴィンチにルーベンス。レンブラントにミレー・・・・
「技術的には全く問題ない。作家ごとの癖もよく再現されてる」
俊はデメリットばかり並べたことに少し罪悪感を感じて、プラスの要素を口にした。
祐哉は小さく笑った。
「素晴らしいだろ?」
「ああ」
「これは?」
祐哉に聞かれて手元を覗き込んだ。
「エグリーの『シャーロットの姫』だ」
「アーサー王の?」
「そう。確か名前はエレインじゃなかったか」
祐哉はじっとその絵に見入っていたが、つぶやくように口を開いた。
「俊・・・・・お前はいないのか?自分の側にいて欲しいと想う人は」
急に自分の話題になり俊は一瞬戸惑ったが、努めて冷静に答えた。
「いない」
「そう?独占したいと思ってる人がいるんじゃない?」
俊はため息をついて立ち上がった。
「征哉さんに何か吹き込まれたか?」
「いや・・・・・まあ、そうなんだけど。お前にも見つかるといいと思って」
「いたとしても、お前のことが優先だ」
絵を片付けようとしたが祐哉はまだ見たいからと制した。
「お前のことが優先って・・・・そんな都合よく順序通りにいくものじゃないだろ。誰かを好きになるのに理屈なんて通用しないんだから」
「結婚はそうはいかない。特に・・・・お前や征哉さんの結婚は」
窓から入り込む風が冷たくなってきた。雲行きがあやしい。俊は今度は断りもなく窓を閉めた。
「お前なら・・・・シャーロットの姫は外の世界を知らないままの方が幸せだったと言うんだろうな」
祐哉が辛辣な口調で言った。こんな風に話すと兄にそっくりだ。
「考えてみろ。怪我をして助けた男が中園の次男だと知って、そこにつけ込まれたらどうする?彼女にしろ叔父にしろ、しめたものだと調子に乗らないと言い切れるか?逆の可能性だってもちろんある。征哉さんの提示したあの金額で、お前から依頼が来たと知って、とんでもないと断ったら?あんな山奥でひっそり暮らすなんて、面倒なことが嫌で俗世から離れたいという願望の表れじゃないか。お前がどんなに希望したって、彼女がやりたくないと言ったらそれまでなんだ。いずれにせよ慎重にすすめる必要がある」
祐哉は受け取ったサンプルの絵に視線を落とした。
「そうか・・・・そうだな・・・・悪かった」
ルノワール、シャガール、ダ・ヴィンチにルーベンス。レンブラントにミレー・・・・
「技術的には全く問題ない。作家ごとの癖もよく再現されてる」
俊はデメリットばかり並べたことに少し罪悪感を感じて、プラスの要素を口にした。
祐哉は小さく笑った。
「素晴らしいだろ?」
「ああ」
「これは?」
祐哉に聞かれて手元を覗き込んだ。
「エグリーの『シャーロットの姫』だ」
「アーサー王の?」
「そう。確か名前はエレインじゃなかったか」
祐哉はじっとその絵に見入っていたが、つぶやくように口を開いた。
「俊・・・・・お前はいないのか?自分の側にいて欲しいと想う人は」
急に自分の話題になり俊は一瞬戸惑ったが、努めて冷静に答えた。
「いない」
「そう?独占したいと思ってる人がいるんじゃない?」
俊はため息をついて立ち上がった。
「征哉さんに何か吹き込まれたか?」
「いや・・・・・まあ、そうなんだけど。お前にも見つかるといいと思って」
「いたとしても、お前のことが優先だ」
絵を片付けようとしたが祐哉はまだ見たいからと制した。
「お前のことが優先って・・・・そんな都合よく順序通りにいくものじゃないだろ。誰かを好きになるのに理屈なんて通用しないんだから」
「結婚はそうはいかない。特に・・・・お前や征哉さんの結婚は」
窓から入り込む風が冷たくなってきた。雲行きがあやしい。俊は今度は断りもなく窓を閉めた。
「お前なら・・・・シャーロットの姫は外の世界を知らないままの方が幸せだったと言うんだろうな」
祐哉が辛辣な口調で言った。こんな風に話すと兄にそっくりだ。