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月夜の迷子たち
第10章 抗う心
「紗奈っちが祐哉くんの恋する謎の美女だとは!世間て狭いねえ」
「いや~ほんとに。君たちがまさか同級生だったなんて!」
「・・・・・・・」

レイアと征哉が俊の仕事部屋にコーヒーとクッキーを持ち運んで、ソファでくつろぎ始めた。
祐哉の肖像画を依頼している画家がレイアの高校の同級生ということが判明して、二人はこの話で盛り上がっているのだった。

「・・・・私はあなた達みたいにくつろいでる暇は無いのです。早く帰ってください」

俊は書類作成の手を止めて冷ややかな視線を二人に投げた。

「まあまあ、そう言わずに。一緒にコーヒー飲もうよ。冷めちゃうよ?」

レイアが手招きする。

「俊、コーヒー飲む時間くらいあるだろ?このコーヒー、うちで新規で輸送したやつだぞ。ほらほら、品質確認も仕事なんじゃない?」

俊はしばらく考えて、そういうことなら・・・・・と仕方なくソファに座った。

「あの二人、付き合うかな!?」

レイアがコーヒーを注ぎながら言った。
人の恋の話が楽しくて仕方ないといった様子ではしゃいでいた。

「そうなるといいけどね。祐哉のあの紗奈ちゃんを見つめる目・・・・・!あんな祐哉見たことない。あれはもう運命の相手だよ」

征哉も弟の恋の行方が楽しみな様子だった。

何も言わずに黙っている俊をニヤニヤしながら覗き込んだ。

「賛成しかねるって顔だな」
「いえ・・・・・・恋愛なら自由にしたらいいと思ってますよ」

(恋愛なら、な)

俊はコーヒーの香りをゆっくり確認してから一口飲んで味わった。

「紗奈ちゃんて、すごいよねえ・・・・・。うらやましい」

レイアは両手を組んでほう・・・・とため息をついた。

征哉が面白そうに身を乗り出した。まるでレイアのような美人は人を羨むことなどないと思っていたかのようだった。

「うらやましい?どういうとこが?」
「ああいう風に人生をかけてやれることがあるってのが羨ましい。私には何もないもん」
征哉と俊は無言で目を合わせた。

「何もない!?君がそれを言うか!?世の中の誰よりも恵まれた美貌を手に入れておいて!?」

征哉は両手を広げて大げさに驚いてみせた。
俊もまた内心は同じように驚いていた。
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