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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「お・・・・・お母さん・・・・・仕事だから・・・・・・」

良く見ると女の子の服は汚れていた。靴もぼろぼろで、小さいサイズのものを無理やり履いているように見えた。

髪は長くぼさぼさに伸びきっていてだらしなく背中まで垂れ、前髪も目にかかって明らかに手入れされていなかった。

レイアは寿司と豚汁を近くのテーブルに置き、自分の髪をまとめていたシュシュを外すと、女の子の髪をそれで一つに結んであげた。

「食べるのに邪魔でしょう?」

何日も洗ってないのかもしれない。がさがさしていてスムーズに指が通らなかった。
女の子は戸惑いながらも、動かずされるがままにしていた。

「そっか。お母さん、忙しいんだね。でもいいな。お母さんがいて。私のお母さん、私があなたの年の時にはもういなかったから」

レイアは女の子が少しでも親近感を感じてくれたらと思い、自分のことを話した。

女の子は少し驚いた顔をしてレイアを見た。

「死んじゃったの?」
「そう。代わりにお母さんのお友達が育ててくれたの。その人が今の私のお母さん」

女の子はそう・・・・と小さく呟いた。

「お、お父さんは・・・・・・?」
「お父さんには会ったことないの」

女の子は今度ははっきりと驚いていた。

「ほんと?」
「ほんとだよ」
「私も!私も同じ!」

女の子は身を乗り出して言った。

「顔は写真で見たことある。一枚だけ。私とお母さんとお父さんと三人の。でも、お父さんがどこにいるのか、お母さんも知らないんだって・・・・・」

レイアは涙が出そうになるのを必死に堪えた。自分とは状況は違うが、この子の感じている孤独は理解できる。

「そっか。私は顔も見たことないんだ。でも、一緒だね」

レイアは女の子の手を取って握手した。
ひんやりとして小さい手がレイアの手にすっぽりおさまって、すこし震えた。

「私はレイアっていうの。あたなのお名前は?」
「私は・・・・・若葉」
「若葉ちゃんかぁ!素敵な名前ね。お母さんがつけてくれたの?」
「うん!」

女の子が初めて可愛らしい笑顔を見せてくれた。レイアも微笑み返した。

寿司と豚汁を置いたテーブルにつれていくと、今度は受け取って食べてくれた。

ポスターを見て、勇気を出して一人で来てくれたのだろうか。
レイアは心の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
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