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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「ありがとう。お姉ちゃん」
「またね。来月も遊びに来てね」

女の子は、うん!と元気良く返事をして帰っていった。

レイアは女の子の背中に向かって心の中で頑張れ・・・・!と唱えた。

「お疲れさま」

俊がレイアの隣に来て言った。
手に持っていた水のペットボトルを渡してくれた。

「ありがとう」

女の子は門を出る時にもう一度振り返って手を振った。
レイアも大きく手を振り返す。

「小野瀬さん、ありがとうございました」

もう全員帰ったと思った時、先ほどの少年がヴァイオリンケースを持って俊の前に立った。

「ああ、またな・・・・・・あ、ちょっと待って!」

俊がレイアの持っていた紙袋の中身を確認する。

「これで全部?もうこの子で最後だからあげていいよな?」
「え?・・・・・うん、いいよ」

俊は紙袋ごと少年に渡した。

「ありがとうございます。皆で食べます」

少年はレイアに向かってお礼を言うと、ペコリと頭を下げて帰っていった。

「ヴァイオリン教えてるの?」

レイアが少年を見送る俊を見上げて聞いた。

「月に一度だけ、このイベントの時にね」
「ふーん・・・・・。才能あるの?」
「どうかな・・・・・。小さい頃から本格的にやらないと、なかなか音楽の世界で成功するのは難しいから。出来ることならもっとちゃんと教えてやりたいけど」

俊は少年の姿が見えなくなると、長椅子に腰掛けた。

「優しいのね」

レイアも横に座って水を飲んだ。ずっと立ちっぱなしで走り回っていたので、足がパンパンだった。

「・・・・・最初は食事をしにくるだけだったんだ。ある時に食事の後に征哉さんと祐哉と俺で簡単な演奏をして・・・・。映画音楽とか子どもが良く知ってる曲をいくつか弾いたんだ。そしたらあの子、すごくヴァイオリンに興味を持って。でも、ヴァイオリンを習うほど余裕がないみたいだから、月に一回だけ、30分程度だけど練習につきあうっていうのがここ何年か続いてる。耳が良いし構えも最初から良かったから、環境さえあれば良いところまでいったかもな」

ネクタイも外してシャツのボタンも開けてリラックスしている俊の姿はいつもと違って距離が近く感じる。

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