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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「ヴァイオリンは、あまりに熱心だからって征哉さんが自分が昔使ってたやつをあげたんだ。すごく喜んで・・・・・・土手とかで一生懸命練習してるみたいだな。征哉さんは何も考えずにぽんぽんあげてしまうけど、俺は本来ならちゃんと自分で稼いだ金で買うべきだと思う。それは彼も思ってて、今はとりあえず征哉さんのヴァイオリンを借りて練習して、いずれ自分で買うために今は新聞配達して金貯めてるんだ。最近はそんなに高くないやつも良い音出るから」
「良い子なのね」
「良い子だよ・・・・・・。俺なんて、彼からしたらものすごく羨ましい環境でレッスンしてたからな。バカ高い個人レッスンに、高額ヴァイオリンに防音設備の整った練習室・・・・・。子どもには色んな可能性があるけど、それを実現させる環境がないと難しい。理不尽さを感じるけど、俺にはどうすることも出来ない。こうしてたまに教えてあげるくらいしか」

レイアは俊の肩をぽんと叩いた。

「十分だよ。彼、すごく楽しそうだった。月に一回、30分でもあなたに会えて教えてもらって、絶対幸せ感じてるよ」

俊は自嘲気味に笑った。

「それならいいけど。君もあの女の子に親切にしてたようだな」
「うん・・・・・。なかなか難しいわよね・・・・・。どこまで踏み込んでいいのか、とか。あまり距離を縮めてもいけない気もするし。あの子だけじゃなく、みんなに平等に同じことをしてあげられるかといったら出来ないし」

俊はそうだな、と頷くと、ため息をついてペットボトルの水を飲み干した。

「どの子もみんな自分の置かれた状況下で必死に生きてくしかない。でも、あの子たちには幸せになって欲しいと願うのは別に不自然なことじゃないんじゃないか」
「そうね・・・・・」

俊が立ち上がったので、レイアも立ち上がった。

「私も子どもの時、こういうイベントがあったら絶対参加してたな。一人のご飯って寂しいもん。きっとあの子たち、今日は楽しかったなって眠りについてくれるよね。そう考えるだけで頑張ってよかったなって思う。手伝わせてくれてありがとう」

レイアは俊に握手を求めた。俊はその手を見て一瞬迷いを見せたが、そっとレイアの手に触れると力を込めて握った。

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