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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「俺じゃなくて征哉さんのおかげだろ?」
「ううん、あなたのおかげよ。一緒に準備してくれて、私の意見も聞いてくれた。ほんとは心配だったでしょ?私に出来るのかって」
「・・・・・・・」

無言は肯定を意味していた。レイアはふふ・・・・・と笑って手を離そうとした。

俊は手を離そうとしなかった。

「ん?」
「何もない・・・・・なんてことは、無い」
「え?」

俊は俯いてレイアを目を合わせない。

「君は・・・・・・君には、周りの人間を笑顔にする力がある。誰にでも出来ることじゃない。だから、’自分には何もない’なんてこと言うなよ」

レイアは征哉と俊と三人の時の会話を思い出した。
俊はあの時のことを言っているのだ。
レイアは素直に嬉しくなって微笑んだ。

「ありがとう。あなたに褒めてもらうと、嬉しい」

いつも俊には怒られることの方が多いから、こうして褒められると他の誰かに褒められるよりも信憑性があって嬉しくなる。

俊はレイアの手を掴んで離さなかった。
まるでこれからどこかに連れていこうとしているような強さがあった。

なんだかいつもと違う雰囲気にレイアは少し戸惑った。
何かいけないことを言ってしまっただろうか・・・・・・。

「どうしたの?」

俊はゆっくりと顔を上げてレイアと目を合わせた。
溢れ出そうな何かを抑え付けて耐えているような、苦悩がそこに見えた。

「俺は・・・・・・・」

レイアは俊が何か大事な事を言おうとしていることだけはわかったので、じっと耳を傾けて待った。

その時、庭を照らしていた外灯のいくつかがパッと消え、薄暗くなった。

俊はハッとしてレイアの手を離した。
突然俊の手が離れ、手が外気に触れた瞬間冷たさを感じる。

「悪い・・・・・何でもない・・・・・・」
「大丈夫?」
「大丈夫だ。おやすみ」

最後はすっかりいつもの俊に戻って、きっぱりと言うと早くその場から去りたいといったように足早に去っていった。

「おやすみ・・・・・・・」

レイアは俊の背中に向かって言ったが、おそらく届いてないだろう。
俊が強く握った手には、まだ感触が残っていた。
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