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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「俺も一緒に行こう。君がこの先も子ども食堂のイベントの仕事をすることになったのなら、中園の従業員になったということだ。どんな家で働くか君の母親も心配するだろう。一度ご挨拶に行った方がいいという話になったんだ」
「えーっ!いいよ、そんなの!」

レイアは驚いて断った。

「これは俺だけの判断じゃない。特に奥様が・・・・・祐哉たちの母が、闘病中の親を抱えながら働く君のことを気にかけているんだ。どうか頼むから一度だけ見舞わせてくれ」

俊が珍しく頭を下げた。レイアは少し悩んだ後にわかったと了解した。
俊はホッとして表情をすると、そうと決まれば急ごうと行って早々にテーブルを片付け始めた。

病院までは俊が運転して行くことになった。
こうして二人で出かけることはもちろん初めてである。

俊は花屋で豪華な花束を買い、レイアは頼まれていた櫛を百貨店で買ってから病院へ向かった。

いつも一人で訪れるレイアが俊を連れて現れたので、看護士たちも驚いていた。

「挨拶したらすぐ帰るよね?」
「ああ」

レイアはなんだか居心地悪い気がして、早く済ませたかった。

病室のドアは開いていた。4人部屋の奥の右側が智子のベッドだった。

「友子さん、来たよ~」

友子は本を読んでいるところだった。
今日は顔色がいい。レイアはいつものように友子の手を握った。

ストレートのボブヘアは綺麗に整えられ、背筋をピンと伸ばして座っている。パジャマを着ていなかったら病人には見えないほどだ。

「どう?」
「うん。調子いいよ」
「突然ごめんなんだけど・・・・今日は私の・・・・・職場の人が挨拶に来てくれたの」
「職場?」

レイアはドアの外で待っていた俊を手招きして呼んだ。

俊は特に表情を変えることなく友子のベッドの脇に立ち花束を渡した。

「突然お邪魔しまして申し訳ございません。私、レイアさんにお仕事を依頼しております小野瀬俊と申します。本日はご挨拶とお仕事の内容のご説明に上がりました」

そう言うと慣れた手つきで名刺を取り出してそっと手渡した。

「あらあら・・・・まあ。これはわざわざご丁寧にどうも。レイアがお世話になっております」

友子は嬉しそうに微笑むと丁寧に頭を下げた。

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