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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「だって、あなた、ほんっとに見事に浮いた話がないんだもの。今が一番花盛りだっていうのにもったいない。若い時って、自分が老いることに実感がないのよねえ。だめよ。あっという間に老けるんだから。今のうちに楽しまなきゃ」

友子こそ、花盛りの時期を双子の育児に捧げ、浮いた話など一つもなかったではないか、と口にしそうになってやめた。

だからこそ、レイアには楽しんで欲しいと思っているのだ。
そもそも、友子に恋人を作る暇を与えなかったのは自分自身なのだから・・・・・。

「小野瀬さん、ご結婚は?まだ?もし彼女がいらっしゃらないなら・・・・・・」
「ちょっと!」
「すごく真面目で誠実そうだし・・・・・」
「もう、やめてったら!」

友子はアハハ!と手で口を覆って笑った。

二人のやりとりにどう反応していいのか考えあぐねている俊を見て、レイアは居心地悪くなって立ち上がった。

「はい!挨拶終わり!今日は帰ります!」

俊も続けて立ち上がる。

「じゃあね。また明日来るからね」
「もう、毎日来なくていいのに」
「来るからね!」
「はいはい」

レイアはさっさと帰るといわんばかりに、先に病室の出口に向かった。
俊は深く頭を下げて失礼しますと、丁寧に挨拶している。

友子は口に手を添えて、俊の下げた頭に向かって何か囁いているようだった。

俊は一瞬驚いたような顔をして友子を見ると、もう一度、今度は黙って頭を下げて出口へと向かった。

俊と肩を並べてエレベーターホールへと向かう。

レイアは大きなため息をついた。

(なんか・・・・・・すごい疲れた)

「大丈夫か?」

俊が疲れた様子のレイアを横目で見て尋ねた。

「家庭訪問?三者面談?を終えた気分」

俊はいまいちピンときてない様子だった。
エレベーターが到着して乗り込む。

「最後、友子さんに何言われたの?」

レイアは俊の顔を覗き込んだ。

「いや・・・・・・別に・・・・・・・」

俊は視線を反らせて言いよどんだ。

「何よ」
「・・・・・・・・・」

エレベーターが一階に着いてしまった。

俊は足早に玄関ホールに向かって廊下を歩いていく。レイアが何としても聞き出そうと駆け出した時だった。

「あれ・・・・・・?俊?俊じゃない!?」

突然背後から女性の声がして、レイアと俊は同時に振り向いた。
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