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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「あー・・・・・・。私一人で帰るから、気にせず行ってね」

レイアがそう行って歩きだすと、俊もついて来た。

「そういうわけにはいかない。予定通り君を送っていく」
「でも、彼女あなたと話したがってたわよ?」
「俺には話すことはない」

なんだかいつになくイラついているように見えた。会いたくない相手だったのだろうか。

「そんなこと言わずに待っててあげなよ。かわいそうじゃない。プロポーズしたってことは、よっぽどあなたが好きだったってことでしょう?」
「昔の話だ」

俊は、鞄の中にある車のキーを取り出すために立ち止まった。
レイアはため息をついて肩をすくめた。

「ふーん・・・・・それにしても、あんなに美人で、しかも女医さんをフるなんてねえ。もったいない。あなたって理想が高いのねぇ」

いつもの調子で言ったつもりだったが、レイアの言葉に俊が動きを止めた。
車のキーをぎり・・・・・と握り締めた。

「もったいない?理想が高い?」

俊の声が一段低くなった気がした。ひどく冷たい声だった。

「・・・・・君みたいな人にはわからない」

レイアの動きも止まった。
心が一気に冷え切っていく。
今まで何度も味わった、あの感じ・・・・・・。

二人の間に不穏な空気が流れる。

(君みたいな人には・・・・・・)

俊はレイアの硬くなった表情を見てハッと我に返ったようだった。

「すまない、今のは・・・・・・」

お待たせー!と郁美の陽気な声が響く。
レイアは俊を見ることが出来なかった。

郁美に向かって頭を下げる。

「すみません。今日はやっぱり帰ります。お二人でどうぞゆっくりしてください」

レイアは精一杯の笑顔でそう言うと返事を待たずに駅に向かって走り出した。

(君みたいな人にはわからない)

俊の言葉が何度も繰り返され、何度も胸に刺さる。

『どうせレイアには私の気持ちなんてわからないよ』
『レイアみたいな人間はいいよね。悩みなんてないでしょ』

今まで散々言われてきた。
自分は皆とは違う生き物かのように。

遠くに突き放されたような疎外感を感じさせる強力な言葉・・・・・・。
お互いを分かり合えてると思っていたのに、それまでの全てを帳消しにしてしまう、失望のカード。
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