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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
「彼女は正気を失っていて、自分がこれから死んでしまうと思ってなかったのよね。誰かに殺されるのではなくて、自分自身も自覚のないまま死んでいく・・・・・。無垢で、哀れで、不気味で、静かで・・・・・。彼女の純粋さと不条理な悲しみが混ざっているから、惹きつけられるんだと思うわ」

友子は懐かしそうな表情でオフィーリアを眺めている。

「友子さん・・・・・・この絵が好きなの?」

玲央が何かを探るように尋ねた。

「ええ、とても好きよ。本物、見に行きたかったな」

’見に行きたかった’と、過去形を使ったことにレイアが敏感に反応する。

「見に行こうよ。三人で。この絵、どこにあるの?」
「ロンドン。俺、もう一人で見に行っちゃったよ」

玲央がしれっと言った。

「いいの!もう一回、三人で行こう?ね?」

レイアが友子の手を握って言った。
友子が苦笑してレイアの手を握り返した。

「そうね。行きたいわね」
「約束だよ!」
「はいはい」

レイアは、友子がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして手を強く握った。

きっとこの絵のせいだ。この絵に惑わされてしまっているだけだ。
そう自分に言い聞かせている時だった。

「お邪魔します」

低い男性の声がして皆で振り向いた。

「南さん」
「レイアちゃん、こんにちは。こちらは・・・・・弟さんだね?」

南はかつてこの病院に入院していた男性だ。入院中に友子と親しくなって、退院してからもこうして友子に会いにきてくれる。

妻と離婚した後、二人の娘を引き取り育て、つい先日下の娘が結婚したところだった。
会社を経営していて、おそらくそれなりの資産を持っているようだったが、そういうところを出さない謙虚な人だった。
背が高く、がっしりした体型は頼もしく見え、目尻のしわが眼差しをより一層優しくさせている。

『そういう人?』

玲央が目を合わせることなく’雰囲気’でレイアに尋ねた。
友子と男女の意識を持って親しくしているのかという意味だ。

『そういう人よ』

レイアもそれに答える。

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