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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
友子があの絵を好きだということを良く知っていた母は、友子に自分のことを忘れさせないために死に際にあの絵を再現させた・・・・・・。

今度はレイアが真っ直ぐ前を見た。

「少しは気が晴れた?」

玲央は少し意地悪そうに言った。

「気が晴れるとか、そういうのじゃないよ」
「じゃあなんだよ」
「・・・・・なんでそんなことするのかなって。自分の死に様、覚えていて欲しいなんて思う?」
「死に様を覚えていて欲しいじゃなくて、存在自体を忘れてほしくないってことだろ」
「存在を忘れるわけないじゃない。わざわざ死んだ姿を目に焼き付ける必要なんてない」
「すっかり忘れることはないけど、やっぱり時間が経てば存在が薄れるものじゃないか。思い出す回数も時間も減る。生きてる人間の時間は止まらないんだから。より印象付けるために最後に強烈なメッセージを残したいと思う人もいるってことだよ」

玲央がやけに熱く語っているのを聞いて、レイアは少し違和感を感じた。
母の話をしているはずなのに、誰か別の人の話をしているみたいだ。

「私にはわからない・・・・・」

レイアは棺の中の母の姿をもう一度思い浮かべた。
玲央の言う通りだ。

母が最後に想った人が父じゃなかったなら、少しは気が晴れる・・・・・。

「レイアも好きな人ができたらわかるんじゃない?」

レイアは玲央を横目で睨んだ。

「何よ。玲央だって本気で誰かを好きになったこと無いくせに」
「さあ、それはどうかな」

玲央はわざとらしく肩をすくめて笑ってみせると駅に向かって歩き始めた。

電車に乗り、新宿で降りる。

「レイアさぁ・・・・・。俺は別にいいけど、そうやって双子の弟と腕組んで歩くのって一般的にはどうなの?って思うよ」
「玲央がいいなら、いいじゃない」

絶世の美男美女の双子が腕を組んで歩いている姿を、周りが注目しないわけはなかった。
誰もが立ち止まり、振り返り、写真を撮る者もいた。

「じゃ、俺はこれからちょっと約束あるから」

玲央は昔お世話になった人と食事があるという。レイアはため息をついた。

「私も行っちゃだめ?」
「だめ」

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