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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
レイアは長い髪を後頭部の下の方でゆるくまとめ、正面から見たら襟足までの長さに見えるように工夫した。

玲央にいたっては、髪の色こそ玲央の方が濃いという違いはあっても、タッジオにそっくりだった。中性的な美しさだった。レイアはやはり女らしさが際立って、可愛らしくなってしまう。

「玲央、そっくりじゃん・・・・・。なんか怖~~」
「高校の時、『タッジオ、タッジオ』言われてたのはこれか・・・・」

セーラーを着ると一気に年齢が下がって、高校生の玲央を彷彿とさせる。

玲央が高校生だった頃、通学中も学校の中でも外でも、あらゆる場所でファンが追っかけてきていた。
若い子だけでなく、年配の女性からも手紙を何度ももらっていた。

ある日、友人と学校帰りの電車の中で談笑している時の話だ。
大きな口を開けてバカ笑いした時に、真面目そうなおさげの女子高生に『あなたはそんな笑い方をしてはいけない。優しそうに微笑むことしか許されないのです』と言われたことに憤慨し、その場で汚い言葉を使ってめちゃくちゃにキレて見せたというエピソードをレイアは思い出した。

この外見で罵られては、女子高生もびっくりしただろうなと気の毒に思う反面、レイア以上に理想を押し付けられてきた玲央の苦労を思って苦笑してしまうのだった。

レイアもパンツスタイルの白いセーラー服を着た。

「どう?」
「なんかのプレイにしか見えない・・・・・・」

レイアは玲央をドンと肘でついた。

「いって・・・・・。あのさぁ、そもそも、この映画どんな話なの?」

玲央に聞かれてレイアは和子に教えてもらったストーリーを思い出して口にした。

「音楽家のおじさんが、療養でベニスに行って、そこで見かけた貴族の少年タッジオに恋をする。おじさんは一度もタッジオと言葉を交わすことなく、最後はタッジオの姿を目に焼き付けて死んでしまうのであった」
「なんだその救われない感じのストーリーは」

全くもって同意だ、とレイアは思った。少年に片思いした挙句、一度も話すことなく死んでしまうなんて・・・・・・。

コンコンとノックの音が聞こえドアを開けると若い使用人の女性がいた。二人を呼びに来たのだった。

女性は玲央を見ると驚愕の表情を浮かべ固まってしまった。
この世のものではないものを見ているような目だった。
レイアは笑って、これは皆大騒ぎになりそう!と喜んだ。
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