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月夜の迷子たち
第11章 恋の種
クライマックスに近づくにつれ、俊はものすごい集中を見せていた。
徐々に登りつめて、最後は想いが最高潮に達し、爆発し、解き放たれる・・・・・。

まるでこの世にレイアと俊しか存在していないようだった。
最後の一音が消えるまで息を止めて見守る。

弾き終わった俊が拍手喝采の中レイアをまっすぐ見つめていた。

その目は、君を想って弾いたのだと訴えていた。
レイアへの激しい感情で溢れている。

レイアの視線を振り切るようにして俊は部屋を出ていってしまった。




映画の上映会が始まり、部屋が暗くなる。
レイアはこっそり抜け出し、俊を探した。おそらく俊の自室だろうと思い、階段を上っていく。

俊の部屋をノックする。
返事がなかったが、中にいる気がしてそっとドアを開けた。

俊は座って手で目を覆って長椅子にもたれ掛かって座っていた。
部屋の電気は点いておらず、閉められたカーテンの隙間から明るい日差しが入り込んでいた。
テーブルには外された眼鏡と強い酒が置いてあり、一気に飲み干したのか、グラスは空だった。

レイアが後ろ手に扉を閉めると、パタンと音が鳴った。
俊は手の端から目を少し覗かせてレイアをチラと見たが、すぐに目を瞑った。

「・・・・勝手に入るなよ」

レイアは黙って俊の横に座った。

テーブルの上の酒はウィスキーだった。ヤケになって強い酒を飲むなんてドラマだけの話じゃないんだなぁと、どうでもいいことが頭に浮かんだ。

レイアはおもむろに瓶を手に取り、グラスにウィスキーを注いで一気に飲み干す。

「!」

俊が驚いてグラスを持つレイアの手首を掴んだ。

「おい!何してんだ!」
「大丈夫。私、いくら飲んでも酔わないから。玲央もだけど、体質みたい」
「・・・・・・」

レイアは自分の左手首を掴んでいる俊の手を右手で握った。

大きくな掌に長くて骨ばった指・・・・・。
この手からあの美しい音楽が生み出されるのかと思うと不思議だった。

「私のこと想って弾いてくれたのね?」

レイアは俊の手を優しく撫でながら尋ねた。
俊はされるがままになって黙っていた。肯定を表す沈黙だった。

「・・・・・・・」

俊は、もうどうでもいいのだといった風にソファの背もたれに寄りかかり、天をあおいだ。
レイアはその横顔を愛しい気持ちで眺めた。

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