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月夜の迷子たち
第2章 再会
大きなキャンバスを見つめる。
果たしてどれだけの日数が必要だろう。100号の肖像画に、オフィーリア、他の仕事もいくつか残っている。三、四ヶ月はかかるか・・・・・。

(そんなに長い間、大丈夫かな・・・・・)

香織のために、新しい命のために、頑張ろうと決意したではないか。
紗奈は祐哉がなぜここまでするのか戸惑う気持ちの上に香織の笑顔を思い浮かべてマイナスの感情を打ち消す。

「引き受けてくれる?」

祐哉の顔が少し緊張したように見えた。

紗奈はもう一度心の中で決意をなぞる。

「はい。頑張ります」

その瞬間、ぱあっと花開くように祐哉が笑った。

「良かった!」

紗奈がやると言うまで、ずっと不安だったようだ。
祐哉はほっとした様子でソファにどさりと座った。

愛らしい笑顔に紗奈も思わず微笑む。

「あの・・・・でも、一つだけお願いがあるんですけど・・・・」

紗奈は遠慮がちに、でもこれだけはお願いしなくてはと思い切って口を開いた。

「何?なんでもどうぞ」
「ここで寝泊りしたいんです」

祐哉が驚いて身を乗り出した。

「ここで?でも、ベッドが・・・・」
「そのソファで十分です」

祐哉は自分が座っているソファをしげしげと見つめた。

「そんなことさせられない」
「いいえ、その方がいいんです。私・・・絵に集中すると、時間の感覚が飛んでしまって・・・・。一日中寝食忘れて描いたりしちゃうので・・・・。こちらで篭っていた方が皆さんにもご迷惑かけないかと思うんです」

本音は、あのような豪華な屋敷で寝泊りするのが落ち着かないのだ、であったがそれを正直には言えなかった。

紗奈の気持ちを汲んでか、祐哉は少し考えたあと頷いた。

「わかった。じゃあ、最低限必要なもの・・・毛布とか。用意しておくよ」
「ありがとうございます」

紗奈はほっとして満面の笑みを浮かべた。
集中して一日でも早く仕上げよう。
紗奈の中の、何かに対する警戒心がそう思わせた。
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