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月夜の迷子たち
第13章 暗闇を照らす光
これは祐哉の母である澄子が、俊に言った言葉だった。当時は自分ばかりが辛くて、母が苦しいだなんてあるわけないと思っていた。しかし、澄子にそれが理解できないなら先には進めないと言われてハッとした。そう、母もただの人間だった。誰よりも強い絶対的な存在で、自分の心の中で神のように君臨していた母。彼女もまた、自分と同じただの人間なのだ。弱くもあり、苦しさや悲しみを感じる一人の人間だ。母の存在が自分の頭の上にずっしりと圧し掛かっている俊を見て、母と同じ高さの目線で向き合ってこそ、彼女から卒業できるのだと澄子は言ったのだった。
「小さい頃、夏になるとここでヴァイオリンのレッスンをした。自宅でするレッスンと違って、母もリラックスしていて、普段弾かないような曲を二人で弾いてみたり、湖のまわりを散歩したり、せまいベッドで一緒に寝たり・・・・・・」
俊は、ひたすら母を慕っていた幼い自分を思い出して、ふいに目頭が熱くなってきた。
母の様子がおかしくなって、どんなに酷いことをされても耐えてきたのは、ただただ母に認められたかったからだ。この母は本当の母ではない。本当の母は、ヴァイオリニストにならなくても自分を愛してくれるのだと。この小屋で過ごした時の母の姿が本当の姿なのだと・・・・・・。
『俊は・・・・・・・お母さんの宝物・・・・・・・』
俊は強烈に思い出した。そうだ、子どもの頃の自分が一番楽しみにしていたこと。
ここでなら母が一緒にベッドで寝てくれたからだ。
抱きしめて、頭を撫でて、俊が大事だと言ってくれた・・・・・。
俊は黙って湖を見つめた。もうすっかり暗くなって、月が湖に映ってユラユラと揺れている。
気がつくとレイアが俊のうしろに立って手を伸ばしてそっと抱きしめていた。
「・・・・・・泣いてもいいよ」
俊はふ・・・・・と小さく笑った。
首にまかれたレイアの腕を撫でさする。
「泣かないよ。もうとっくに過ぎ去ったことだ」
「そう?でも、私の前ではかっこつけないでいいからね」
耳元で聴こえるレイアの囁きは、どんな楽器よりも美しく澄んだ音色だった。
「小さい頃、夏になるとここでヴァイオリンのレッスンをした。自宅でするレッスンと違って、母もリラックスしていて、普段弾かないような曲を二人で弾いてみたり、湖のまわりを散歩したり、せまいベッドで一緒に寝たり・・・・・・」
俊は、ひたすら母を慕っていた幼い自分を思い出して、ふいに目頭が熱くなってきた。
母の様子がおかしくなって、どんなに酷いことをされても耐えてきたのは、ただただ母に認められたかったからだ。この母は本当の母ではない。本当の母は、ヴァイオリニストにならなくても自分を愛してくれるのだと。この小屋で過ごした時の母の姿が本当の姿なのだと・・・・・・。
『俊は・・・・・・・お母さんの宝物・・・・・・・』
俊は強烈に思い出した。そうだ、子どもの頃の自分が一番楽しみにしていたこと。
ここでなら母が一緒にベッドで寝てくれたからだ。
抱きしめて、頭を撫でて、俊が大事だと言ってくれた・・・・・。
俊は黙って湖を見つめた。もうすっかり暗くなって、月が湖に映ってユラユラと揺れている。
気がつくとレイアが俊のうしろに立って手を伸ばしてそっと抱きしめていた。
「・・・・・・泣いてもいいよ」
俊はふ・・・・・と小さく笑った。
首にまかれたレイアの腕を撫でさする。
「泣かないよ。もうとっくに過ぎ去ったことだ」
「そう?でも、私の前ではかっこつけないでいいからね」
耳元で聴こえるレイアの囁きは、どんな楽器よりも美しく澄んだ音色だった。