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月夜の迷子たち
第13章 暗闇を照らす光
俊はシャワー室から出て空にぽっかりと浮かぶ月を見上げた。
母が俊を捨てて家を出たあの日も、こんな風に輝く大きな月が見えた。
自分のそれまでの人生は何だったのかと。何のために生れてきたのだろうかと絶望したあの日。
いっそこの世から消えてしまいたいと思ったあの日も、月は今と同じようにただそこで輝いているだけだった。
それまでギラギラと荒れ狂った母から放たれる光を浴びて生きてきた。その光を浴びなくなった自分の存在はどこかに消えてしまった。
自分の立ち位置がわからなくなって、あてどなく彷徨っている俊の頭上から月が自分を照らしていた。
あの時は、全身を刺すような光が痛かった。

今は、ただただ美しいと純粋に感じることが出来る。



小屋に入ると、レイアがベッドの上に膝立ちになって窓枠に手をかけて外を眺めていた。
月の光を浴びた頬は陶器のように白く美しく、長い髪はそのうねりに合わせて影に濃淡が出来、ところどころキラキラと光っている。その姿は女神そのものだった。
俊はあまりの神々しさに動けなかった。

北欧神話に出てくる全ての女神の中で最も美しいとされているフレイア・・・・・・。

双子の片割れであるフレイもまた容姿端麗と言われた美男神だった。
おそらくレイアたちはこの神たちから名前を取ったのだ。

この自分が触れていい存在なのか、真剣に躊躇した。
やはり、究極の美とは自然と発生するものであって、努力で造り出せるものではないのではないかという考えが浮かんできてしまう。
レイアが俊の方を振り向いて微笑みかける。
俊への愛しい気持ちが溢れているその笑みを見て、俊は我に返って自分に言い聞かせた。
レイアは女神なんかじゃない。ただの一人の人間で、自分を愛してくれている普通の女の子だ。
彼女の心も身体も愛したい。

俊は黙ってレイアに近づき、ベッドに腰かけるとレイアを引き寄せた。
そっと唇を合わせてから見つめあう。
レイアが俊の濡れた髪に指先で触れた。

「髪、乾かさなくていいの?」
「・・・・・・もう我慢できない。濡れたままでもいい?」
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