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月夜の迷子たち
第2章 再会
紗奈の絵の師匠は、耕太と一緒に暮らしていた家の近所で絵画教室を開いていた老人だ。絵画修復士として長年働いていたが、引退して自宅で趣味程度に教室を開いていた。
師匠からは絵画の基本だけでなく、修復の技術や複製の技術も教えてもらった。
学校以外はほとんど入り浸って、あらゆる技術を吸収した。
耕太も香織も働いていたから、紗奈が絵画教室にいてくれることは二人にとっても都合がよく、師匠の方も紗奈の才能に気づいて、これは伸ばしてあげたいと安い月謝で引き受けてくれていたのだった。
紗奈の複製画を最初に買ってくれたのは師匠だった。
それからすぐに天国へ旅立ってしまったが・・・・。
紗奈の話を祐哉はじっと聞いていた。
紗奈は不安げに、さぐるように祐哉の顔を見た。
「美術の学校出てないような私に・・・大事な肖像画を描かせて、本当にいいの?」
「そんなこと全く気にする必要ない。技術的な不安があれば俊がオーケーを出さないよ。あいつは仕事全般出来る奴だけど、芸術に関しては特に厳しい目と耳を持ってるから」
紗奈は小野瀬の鋭い眼差しを思い出した。
全てのものを詳細に見つめ、吟味した後、判断を下す。
冷静沈着、といった言葉がぴったりな人だと紗奈は思っていた。
「オフィーリア、原画を見たことはある?」
聞かれて紗奈は頷いた。
耕太は紗奈に複製画を本格的に仕事にするにあたって、三週間ほどの絵画鑑賞旅行を決行した。
複製するからには本物を見た方がいいに決まっているという耕太の単純な思いつきだったが、これが紗奈にとってとても大きな経験だった。
写真によって絵画の色彩は変わってしまう。
原画を間近に見て、脳裏に焼きつけたことで、より本物に近い色彩、タッチを表現することができた。
ヨーロッパを二週間、アメリカを一週間、ありとあらゆる美術館をまわり、原画を見た。
「本物を見るまでは、緻密なタッチを良く観察しよう、なんて思ってたの。でも、見た瞬間、そんなことは頭から飛んでしまって。ただただ美しさに魅了されちゃって・・・。自分がその場にいるような・・・・」
「それ、わかるなぁ。今まさに目の前でオフィーリアが沈み込んでいく様を見ているような感覚に俺も陥った。絵にあんなにも引き込まれるなんて初めての経験だった」
二人は顔を合わせてふふ・・・と笑った。
師匠からは絵画の基本だけでなく、修復の技術や複製の技術も教えてもらった。
学校以外はほとんど入り浸って、あらゆる技術を吸収した。
耕太も香織も働いていたから、紗奈が絵画教室にいてくれることは二人にとっても都合がよく、師匠の方も紗奈の才能に気づいて、これは伸ばしてあげたいと安い月謝で引き受けてくれていたのだった。
紗奈の複製画を最初に買ってくれたのは師匠だった。
それからすぐに天国へ旅立ってしまったが・・・・。
紗奈の話を祐哉はじっと聞いていた。
紗奈は不安げに、さぐるように祐哉の顔を見た。
「美術の学校出てないような私に・・・大事な肖像画を描かせて、本当にいいの?」
「そんなこと全く気にする必要ない。技術的な不安があれば俊がオーケーを出さないよ。あいつは仕事全般出来る奴だけど、芸術に関しては特に厳しい目と耳を持ってるから」
紗奈は小野瀬の鋭い眼差しを思い出した。
全てのものを詳細に見つめ、吟味した後、判断を下す。
冷静沈着、といった言葉がぴったりな人だと紗奈は思っていた。
「オフィーリア、原画を見たことはある?」
聞かれて紗奈は頷いた。
耕太は紗奈に複製画を本格的に仕事にするにあたって、三週間ほどの絵画鑑賞旅行を決行した。
複製するからには本物を見た方がいいに決まっているという耕太の単純な思いつきだったが、これが紗奈にとってとても大きな経験だった。
写真によって絵画の色彩は変わってしまう。
原画を間近に見て、脳裏に焼きつけたことで、より本物に近い色彩、タッチを表現することができた。
ヨーロッパを二週間、アメリカを一週間、ありとあらゆる美術館をまわり、原画を見た。
「本物を見るまでは、緻密なタッチを良く観察しよう、なんて思ってたの。でも、見た瞬間、そんなことは頭から飛んでしまって。ただただ美しさに魅了されちゃって・・・。自分がその場にいるような・・・・」
「それ、わかるなぁ。今まさに目の前でオフィーリアが沈み込んでいく様を見ているような感覚に俺も陥った。絵にあんなにも引き込まれるなんて初めての経験だった」
二人は顔を合わせてふふ・・・と笑った。